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 例のトレーナー、バッジを三つ手に入れたって。
 ガセじゃなくて? 本当に……?
 そうらしいわ。どうして、サザンクロスは認めたのかしら。
 サザンクロスが認めたってことは、噂がデマってこと?
 さあ、でも、火がないところには煙が立たないっていうし……。
 少なくとも、火はあったんでしょう。


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 リュウチンジムのルールを聞いて、一晩悩んだ。出したいと思っていたポケモンの数はピッタリ。
「鋭侍と、沙月を出すとして……」
 相手が出してくるポケモンは不明。ある程度、此方にも勝機があるようなやり方をしてくるとは思うのだが、不安定要素の一つだ。鋭侍がスピードアタッカーとすれば、沙月はまだまだ発展途上のバランスタイプ。性格的にも、指示を多く欲しているのは沙月だろう。
「(鋭侍の自主性に任せつつ、僕と沙月でバックアップしていく形にするか……? 嫌、風音や炎李ならまだしも、鋭侍に僕の考えを察しろというのは難しいか。僕もまだ、鋭侍のことをちゃんとわかってる訳じゃないし)」
 しかし、今回出したいのは鋭侍と沙月だ。それ以外の子を出すのもいいのだが、なんというか全面的な信頼がある。  そう、言い方が悪いが僕はまだあの子たちを信頼しきれていないのだ。
 リゾート地であるリュウチン島にはバトルフィールドは少ない。ホテルの受付に空いているバトルフィールドの場所を聞くと、ジムのフィールドを貸してくれると言うので好意に甘えた。他の手段も聞いたが、往復二時間ならコッチに時間を割きたい。
「鋭侍、沙月」
 モンスターボールの中から二人を出す。出てきた二人は軽く鳴き、見慣れない場所を警戒しつつも僕の要件を待った。
「リュウチンジムの件は前にも言ってたよね? 覚えてる?」
 覚えているよと、いうような声で返事が来る。
「今回、二人にはタッグになってバトルをしてもらいます。お互い二対二でこの一つのフィールドを使って戦う。二人のうち、どっちかが戦闘不能になった時点で僕らの負け。ここまではいいかな?」
『味方が居るのは頼もしい。よろしく頼みます、沙月殿』
『う。最善は尽くしますが、あんまり期待しないでくださいね……』
 全面的な信頼を寄せる鋭侍の期待に応えられるのかが不安なのだろう。沙月の表情は険しい。しかし、今までの沙月なら怖気づいて僕に助けを求めていただろう。うん、進歩している。
「僕も初めての戦い方だ。多分、僕が全ての指示を出すのは難しい」
『自己判断で動いて良いと、いうことでしょうか……? 拙者、背中を預けて戦うのは少々苦手で』
『さっきと言ってること違いませんか、鋭侍さん』
『御館様の指示があれば良いのですが、拙者の判断で動くとなると少々不安が……』
 鋭侍の顔も曇り始めた。やはり、不安な部分も多い。だから不安を消すために話し合うのだ。
「ある程度、ルールを決めようと思う。あくまで僕が机上論で考えたことだから、無理だったり、別の案があったりするのなら否定してほしい。頑張って読み解くから、遠慮はしないで」
『わかりました』
『はい』
 同意は貰えた。食い違った所は風音もカバーしてくれるだろう。

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 リュウチンジム専用のバトルフィールドがある地下。その地下に設置されている監視カメラから、彼らのことをモニタリングする。
「なんで貸した? オマエのことだから、断ると思ってたんだが……」
「酷い言い方。そうね、色々とコストがかかるから普段はこんなことしないわ」
「銭ゲバめ」
「あら、お金は大事よ。とってもね」
 相変わらず金の亡者だ。表の顔はまともに見えるが、実際はこのホテルを切り盛りする経営者としての一面のほうが強い。金は大事だし、島に人を呼ぶこむためになりふり構わず様々な手法を講じた。サザンクロスだってその手段の一つに過ぎない。踏み台だ。
「アンタの秘蔵っ子でしょ」
「…………」
「あと、お詫びかしら。これに関してはアタシの感情ね。同情よ、同情」
 不敵な笑みを浮かべて、ルリコは画面を見つめた。
「遠路はるばるカントーから来たのに、あの噂はあんまりでしょう。まだ旅立って半年も立っていない子がよ? 提出されたデータは見たけど、見事な冤罪。相手が相手なだけで普通ならとっくの昔に潔白が証明されている」
 どうも、怪しい。昔のオマエはそんなヤツじゃなかっただろ。
「灰皿は?」
「は? ここで吸うつもり?」
「キレんなよ、喫煙者だろお前も」
「止めたわよ、とっくの昔にね」
 最後に会ったときはまだ吸ってた気がするが……? まあいい。室内で数ほどヤニに飢えてはない。随分といいマイクを設置しているのか、バカ弟子の声が聞こえてくる。ダイヤルを調整し、音が聞こえないようにする。
「ちょっと、なにすんのよ」
「盗聴までして勝つ気か?」
 正気か。精々、トレーナーのデータを見る程度にしておけよ。それでもかなりコッチのアドバンテージがあるっていうのに。作戦云々まで聞くのは違うだろう。
「気になるじゃないの、純粋に。あの子がどんな手を使って挑んでくるのか」
 これは危険だ。早急にホテルの仕事に戻す必要がある。
「プクリン」
「?」
「コイツを職場に戻しとけ。オレが良いというまでこの部屋には近づけるな」
「はあ? アンタに権限なんて……」
「ぷっく!」
 任せろというように腹を叩いてルリコを連れ去っていくプクリン。出て行ったのを確認して、音量を上げた。聞こえてくる声。やはり使うのは例の二対か。聞こえてくる対策の数々。まあ、初めて挑むものに関してそこまで考えられるなら妥協点ぐらいはやれるか。
 ルリコがいなくなったことで、灰皿を探す。……無い。仕方がないので携帯している灰皿を出した。

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