そこで勝利を収めれば晴れて殿堂入り。トレーナーとしての技量、将来性が認められる。
挑戦権を得た時点で、開示されたヘッドリーダー・ユウジの使用するポケモン。
6対6のフルバトルをするだけあって、幅広い選択肢が生まれている。
唯一決まっているのは、最後の砦ぐらいか。此方の使用するポケモンは既に決まっている。
できることといえば、自分の有利を押し付けること。
ルリコさんに勝利した時のように、予め用意した勝ち筋を通しぬくことか。
カンキツ島に着いたのは、ルリコさんに勝利して三週間目のことだった。ヘッドリーダー・ユウジの使用するポケモンを調べ、それに対抗する為の戦術を試行錯誤しながら練り、形にした所でようやく来たという形だ。
ディランさんにはもっと早く行けるだろと、小言を受けたが無視した。人に絡まれるのは苦手だし、鋭侍の意識改革もあった。僕の期待に応えるように鋭侍は何度も転んで立ち上がった。そんな彼に発破をかけられ、パーティ全体が訓練モードになったのもある。有意義な日々だった。
「オレンジリーグ・ウィナーズカップの申し込みに来ました」
指定された場所にバッジを出し、機械に読み取ってもらう。パソコン上に僕のデータが表示され、受付のおじさんはにこやかに笑いながら処理を施した。
「遠路はるばるマサラタウンからご苦労様。一応確認しておくけれど、敗北した場合、半年間は再戦できない。半年たった後、ランダムに一人のサザンクロスの元に行ってもらうことになっている。本当にこの先に進むのかい?」
勝つためにここに来た。負けた時の確認なんて不要だ。
「はい、問題ありません」
「君の試合は、明日の朝10時からカンキツスタジアムで行われるよ。これがこの島の地図。他に必要なものはあるかな?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
地図を受け取って受付から出る。物見遊山か、受付には何人かのトレーナーが居た。ちらちらと視線を感じるのは僕とディランさんが一緒に入ってきたせいだろうか。ここにいるのが全員、ウィナーズカップに挑戦する子たちであればディランさんを突破しているのは言わずもがな、か。
「バカ弟子! ちょっと付き合え」
視線が一気に集中する。……普通に名前、呼んでくれないかな。
僕の気持ちに気付いている癖に、改善はない。腕を掴まれてぐんぐんと引っ張られる。……何処に連れて行かれるんだろう。
ディランさんが連れてきたのは島の頂。明日の舞台、カンキツスタジアムだ。
試合のない日は関係者以外立ち入り禁止だと思っていたのだが、サザンクロスの権限を乱用してか、ぐんぐんと奥へ進んでいく。一応、資料で見たことあるが生で見ると印象がまた違う。増改築を繰り返した歴史を感じさせる建物。内部こそ新しさを感じるが、外観や所々においてある銅像は島の歴史を感じさせる。
「随分と遅かったですね、ディランさん」
「バカ弟子が日和ってな。連絡はしただろ、ユウジ」
バトルフィールドの中央に立っていた人。
僕の視線に気付いた彼は、目尻を下げて穏やかに笑いかける。
「初めまして、ディランさんから君のことは聞いている。明日のバトル、楽しみにしているよ」
「はい、お願いします」
ディランさんがどんな紹介をしたのかは知らないが、悪口は言っていないだろう。そう信じている。
軽く頭を下げ、一歩下がる。正直、これ以上何を話せばいいのかわからなかったのだ。
「調子はどうだ? コイツ以外に挑んでるか?」
「4月から数えるのなら、0ですね。貴方がもう少し優しいと、わたしに挑んでくる子が増えると思うんですけど」
「あ? テメェの一体目すら倒せん雑魚が量産される方が興醒めだろうが。質が悪ィんだよ、質が」
過去を思い出して若干イライラしているディランさん。本当に酷かっただろうことが察せられた。まあ、いくらヘッドリーダー相手とはいえ、6対6なのに、1対6みたいな結果になっていれば酔いも覚めるというものか。
ディランさんが、一人でも倒れたら負けという理不尽を示したのは彼に勝てる者がいなかったからだろう。理不尽を突破しても尚、足りない高い壁。
「随分と入れ込んでるんですね、彼女」
「
「!」
ディランさんの発言に、大きく反応してしまう。信じられないものを見るように彼の顔を見たが、ディランさんはまっすぐと前を、ユウジさんのほうを見ている。釣られるようにユウジさんを見れば、ユウジさんが僕を見ていた。疑っているように。ディランさんの発言の真意を探るように。
「……。珍しい。貴方がそれを言うだなんて」
本当に、本当に稀有なものを見たという声で呟く。
まだ情報を整理しきれていないのか、遠慮のない素直な言葉だった。
「舐めてんのか? オレに勝てなかった癖に、そこに立ったオマエが」
「わたしの実力を疑ってるんですか」
「全力でやれって言ってるだけだ。負けた後に言い訳されると困るだろ」
「貴方は……本気で、わたしが負けると?」
「嗚呼、思っている」
「っ!」
ディランさん、発破をかけるのはいいけれど殺意のオマケをつけないでほしい。ユウジさん、凄い顔になったよ。最初の優しそうな顔がどこかに消えて、僕を殺さんとばかりに睨みつけている。
「オマエの負け面、楽しみにしているよ」
「負けないさ、わたしは」
ひらひらと手を振って歩き出したディランさん。用事は済んだとばかりに背を向けて行ってしまう。自分勝手な人だなと肩を落とし、少し気まずくなってユウジさんに頭を下げてからディランさんを追いかけた。
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