神童

092
 10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人。
 オレがそれを自覚したのは20になる手前の頃。
 メディアに「神童」として紹介され、応えるように結果を出し続けた。
 15になっても衰えることなく、その勢いはずっと続くものだと信じていた。
  ……」
 壁があった。高い、高い壁だ。
 オレを負かした赤目の男は白い息を吐いて遠くを見る。
 オレなど、真の天才の前では足元にも及ばない。只の人だったと思い知ったのだ。


▼ △ ▼ △ ▼

 熱気に包まれたスタジアム。ヘッドリーダー・ユウジの5ヶ月ぶりの公式戦と理解すれば、観客が熱を持つのもわからなくはない。
「(10年前か……? 懐かしい夢を見た)」
 自分の弟子だと、お前を負かす神童だと紹介した子。ガヤガヤと実況が何かを言っている。ぼんやりとスタジアム中央のいい席で二人のやり取りを見守る。
「6対6のフルバトル、何方かのポケモンが3体戦闘不能になった時点でフィールドチェンジを行います。それではヘッドリーダー・ユウジ、一番手を」
 ユウジの一番手は変わらず、メタモン。使い手次第でいかようにも化けるポケモンだ。バカ弟子は一度戦ったことのある相手。攻略法も考えているだろう。
「行こう、風音」
 案の定、風音だ。メタモンで何度かバカ弟子と戦っているが、風音と戦っているときは特にメタモンが疲れる。その特異性を生かさない手はない。詳細を知っていれば不正だと言う輩もいるだろうが、薬でドーピングしていないことは知っている。大会的には何の問題もないポケモンだ。
「それでは、バトル開始!」
 先手、後手という概念は無い。どっちが素早く動けるかの勝負。
「メタモン、変身だ!」
「恩返し」
 ぐにゃりと形を変えようとするメタモンに対し、風音が光を纏って突っ込む。
 恩返し≠ニは、トレーナーに対する恩義を力に変えて攻撃する技。要は、どれだけ互いを信頼しているのかというのが暗にわかる技だ。風音の特性は、適応力。威力十分の恩返し≠使用したということは、メタモンの初動にありがちな致命的な隙を狙ってのこと。
「(速い!)回避だ!」
「(変身を中断した。隙を作れば、化けられる)追撃!」
 技を使い続けるということは難しい。メタモンは回避に徹し、恩返し≠フ隙を狙っている。風音も技が出せない時間が狙われていることを理解した。自己判断で、例え威力が落ちようとも恩返し≠相手に接触するギリギリのタイミングで使用している。これにより、技を使い続けることによる消耗、及びそれに伴う隙を作らないようにしていた。
「(いい判断だ。自分で考えているのか?)」
「(変身は止めれたけど、先に進まないな)」
 メタモンが覚えている技は変身∴ネ外に存在しない。
 故に、多くのトレーナーはこう判断する。変身さえさせなければ、攻撃されないと。それは正しくもあり、メタモンを使用したことのあるトレーナーならば一度はたどり着く終着点だ。
「拘束しろ!」
 枝のように体を細くしたメタモンは、風音の攻撃を回避し背後に回った瞬間に飛び掛かる。背中から伸し掛かられ、伸縮性のある体に包まれた風音は途端に身動きが取れなくなる。
「風音!」
 これは予想していなかった攻撃だろう。だから、安否確認のために名を呼んだ。想定していればバカ弟子は指示を飛ばした。
『う、ぐ……ぅ!』
 ジタバタともがく風音だが、伸縮性のあるメタモン体だ。小さな風音が絡めとられた時点で、抜け出すのは非常に難しい。炎李や疾風のように、体格のあるポケモンであれば拘束は不可能だった。
「(風音をボールに戻すか? 仮に出すとすれば、鋭侍辺りが候補になるが……)」
「スピードスター」
 僅かに動く体を震わせ、風音が頭上にスピードスター≠浮かべる。そしてそのまま落とした。
「!」
 スピードスターが二人にぶつかったことにより黒煙が生まれ、バトルフィールドの視界が潰れる。
 視界が潰れた僅かな隙をチャンスと見たユウジはすぐさまメタモンに変身を指示した。津波が何も言わなかったのを見るに、風音に変身させたほうが、勝機があると判断したな。
 煙が晴れると、二匹のイーブイがバトルフィールドに立っていた。何方が風音なのかは一目で理解した。攻撃し続け、相手にカウンターとして締め付けられていたのだ。肩で息をし、追い詰められつつある風音はトレーナーと同じように不敵に笑い続けていた。

▼ △ ▼ △ ▼

 スピードスター≠ノよる自爆に近い攻撃で、メタモンからの拘束からは逃れられた。その隙を見逃さず、ユウジさんはメタモンに変身≠フ指示を送り、風音に化けさせる。
「(変身を阻止して速攻をかけるのは欲張りすぎたか)」
 追撃しすぎた気がするが、修正は後日すること。今は残された体力、技を使ってどうやって勝つか。それだけを考えなければならない。
「アイアンテール」
 ディランさん曰く、風音は異質らしい。ディランさんのメタモンは長年の経験から、自分の体を上手く操作できる。どんな体格のポケモンだろうが、そのポケモンになりきってその通りに動ける。けれど、風音は違う。想像した動きから数段ズレるのだという。そのズレは初見では知ることのできない明確な隙となる!
 地面を蹴り、想像以上に高く飛んだメタモン。自分の高さを理解できなかったのか、一瞬、メタモンも焦った。風音が明確な隙を見逃すはずがない。浮いた腹目掛けて逆にアイアンテールを叩き込む。
 空高く更に飛んだメタモン。流石にこのまま落ちるわけにはいかないと、メタモンが気球のようなものに化ける。お手本もないのに戦闘中に化けるとは見事なものだ。勢いは殺され、ゆっくりとメタモンが落ちてくる。うかつに近づけば、きっとまた絡めとられるだろう。
「シャドーボール」
「(何の真似だ!?)」
 ノーマルタイプのメタモンに、ゴーストタイプのシャドーボール≠ヘ無意味な攻撃だ。しかし、ダメージが無いだけで爆発は起きる。メタモンにぶつかったシャドーボール≠ヘ僕らの望み通り、再度視界を悪くした。
 煙の中から弾き飛ばされる影。地面に勢いよく叩きつけられた影を見、ユウジさんが叫ぶ。
「メタモン!」
 対メタモンにおいては決まっている戦いである為、いくつかのパターンを想定して動きを作った。シャドーボール≠ノよる目潰しも、その一つ。邪魔をされない、かつ、風音が行けると判断したときのみ恩返し≠使用する。
「(これで一旦、トントンかな……)」
 ユウジさんの声で、むくりと体を起こしたメタモン。この程度では戦闘不能になってくれないか。
「スピードスター」
 まだ接近はしたくない。牽制もかねて、必中の効果があるスピードスター≠フ指示を飛ばす。ユウジさんは避けられない攻撃を回避する為に、メタモンに近くにあった岩をぶつけさせスピードスター≠無理矢理相殺させた。
 風音の追撃がないのを見たメタモンはすぐに自己判断で風音に変身する。それを見たユウジさんが、すかさず指示を飛ばす。
「アイアンテール!」
「(修正が早いな)アイアンテール!」
 同じ轍は踏まない。先程、アイアンテール≠ナ失敗したメタモンはすぐに誤差を修正し、攻撃してくる。互いに尻尾を硬化させ、撃ち合う。金属がぶつかり合う高い音がフィールドに鳴り響いた。
 何度か打ち合った時、風音の体が落ちた。
「!」
 アイアンテール≠フ打ち合いに負けた? いいや、違う。僕が見たのはそれじゃない。
「部分的な解除……」
「正解。よくわかったね」
 すぐに正解を教えてくれる所を見るに、余程自信があるらしい。見せびらかすように、風音に化けているメタモンの尻尾が鞭のように長く伸びた。イーブイならばありえない長さ。メタモンが化けでいるからこそできる攻撃だ。
「風音」
『はい』
 攻撃は食らったが、メタモンが返信を解除して行った攻撃だ。地面に落とされたほうの衝撃のほうがダメージとして響いているだろう。
「(まともに食らえるのはあと一発が限度かな)」
 メタモンも疲れが見え隠れしている。それがダメージによる疲労か、風音に変身したことによる疲労なのかは判断がつかなかった。
「行くよ、風音! 恩返し!」
「メタモン、此方も恩返しだ!」
 お互いが光に包まれ、ぶつかる。凄まじいエネルギーのぶつかり合いは目を晦ますほどの光を生み、爆発した。爆発の衝撃で、吹き飛ぶ二人の声が微かに聞こえた。爆煙がバトルフィールドを包み、微かな音で何方かが倒れたことを知った。
「メタモン戦闘不能! イーブイの勝利!」
 ドッと会場が沸く。まずは一勝、勝ち取ったと小さく拳を握る。
 勝利を喜ぶのはいい。でも、油断はするな。あと5回、あと5回勝たなければ意味がない。

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