若い頃の勢いか、順調に勝ち進み、一度の挑戦で殿堂入りを果たした。
メディアは俺を「神童」と褒め称え、オレはそれに応えるように様々なことに挑戦した。
その挑戦でオレは得意なことと不得意なことを知る。
知らない地方に行き、知らないポケモンを捕まえ、育てる。
幾度とそれと新しいことを繰り返しながら、実績を積む。
自身が天才でないと知った頃、弟子にしてほしいという子が来た気がした。
……嫌、それは都合のいい妄想か。
今日の気温は何度だっただろう。汗が滲み、ぽたりと服を濡らした。
ひゅうと、鋭く吸い込んだ外気が喉を焼く。カンカンと鳴り響く実況の声が、何処か遠くのもののように思えた。
「フシギバナ戦闘不能! ウインディの勝利」
「おぉっと、チャレンジャー! なんて幸先のいいスタート! ヘッドリーダー・ユウジを追い詰めていく!」
「吼えるはランダム要素がある技なので運が良かったですね。天が味方をしたのは彼かもしれません」
天。天は平等だ。
かつて神童と呼ばれた人は自身が凡人であると告げ、誰かを探すようにサザンクロスとなった。空いた席を埋める為に選ばれた自分は、あの人の代替品でしかないと、きっと何処かで分かっていた。
あの人に憧れ、あの人と同じ道を辿った。貴方と同じように、戦って、戦って、勝って、神童と呼ばれました。それでも貴方には及びません。
「(舐めていたか……?)」
目の前に立つ彼女はどんなポケモンを使うんだったか。
いつも通り戦えば勝てると知って、いつしかわたしは調べることを止めた。それでも追いつめられることなど無く、わたしはいつものようにあの人が座るはずだった席に立つ。あの人が得るべきだった賞賛を受け、歴代最強という称号を得る。
「(……速く、力もあり、それ以上に冷静だった)」
視界を奪い、死角からの致命傷を狙ったがあれは見切られていた。此方の最高速度をあのウインディは見切っていた。
弟子と紹介されたのも、あの噂のせいだと思っていた。旅立って半年のトレーナーには酷な話だという同情しかないと思っていたのに、まさか、本当に、ほんとうに……!
「沙月」
「イワーク」
怒りのまま、ポケモンを繰り出す。
いいや、そんなことはない。何かの間違いだ。
わたしだって、君と同じ年齢でそこに立った! 君以上に研鑽し、この場所にいる。負けなければいい。倒れなければいい。
かつてないユウジの危機に実況が観客の熱を煽る。煽られた観客は挑戦者を応援したり、ユウジに対して声援を送ったりする。噂の影響など何のその、会場がやや挑戦者側についているというような形だろうか。
「(観客を味方につけるのはいいことだ)」
野次よりも、声援であったほうが気持ちはいい。指示が乱れることはないだろうが、モチベーションの一つにはなる。
ボールから出てきた両者が睨みあい相手の様子を伺う。この硬直はそう長くは続かないだろう。
「沙月」
やはり、示し合わせていたか。指示一つで迷うことなくイワークの元へと突っ込む。
「岩落とし!」
「被弾しないで」
イワークが地面を叩き、無数の岩を飛ばす。紙一重で飛んでくる岩を回避しながら接近し続ける沙月。飛んでくる岩が目隠しとなっているのか、イワークは気付いていない。ある程度の場所を予想しながら投げているだけだ。
「二度蹴り」
「躱せ!」
回避は無理だ。イワークは沙月の接近に気付いていなかった。今回の二度蹴り≠ヘ不意をついた攻撃に近い。ユウジが指示するのであれば防御だ。身構えろ、衝撃を緩和しろと、そういうしかなかった。
「(指示と行動の差でズレが出たな。せめて何も言わなかったら、マシになっただろうに)」
焦りか、慢心か。どちらにせよ、このままいけば何の問題なく攻略できるだろう。
効果は抜群。それに加えて、沙月の特性である張り切りの影響か。思った以上に飛ばされた。いい所にあたったのか、起き上がるのも少し遅い。それを勝機と捉えたバカ弟子が今回の勝利条件を変えた。
「毒菱」
「(クソ厄介な技を使うなァ……)」
しかし、使うタイミングとしては悪くない技だ。
オレンジリーグ・ウィナーズカップには伝統という理由だけで続けられているルールがある。開始時に伝えられたフィールドチェンジだ。技術の発展と、バトルフィールドの維持費等の観点から縮小された伝統であり、伝統を重視していれば今頃はこんなスタジアムなど使わずに屋外を連れまわされているだろうなーと、苦く笑う。
で、バカ弟子が使った毒菱≠フ話だ。何方かの三匹のポケモンが倒れた時点でフィールドが交代。合計などと言われていないから、ユウジかバカ弟子の何方も手持ち数が半分を切った所でフィールドチェンジが行われる。つまり、この毒菱≠ヘイワークを倒せさえすればバカ弟子視点、回収する必要がないのだ。
「(仮に倒されたとしても、踏まなければいい。踏まないだけを重視するなら、どうにかなるメンツが残っている)」
体力の消耗から考えて、風音は基本出てこない。出すとすれば強制交換ぐらいか。鋭侍や炎李は踏んでいいと言われるまで踏まないだろうし、氷河も氷河でボールから出た瞬間サイコキネシス≠ナ飛ぶ。一時的に飛ぶだけなのであの二匹よりマシだが、此奴の思考回路がオレ的にはわからん。
できるように求めるトレーナーもトレーナーだが、できてしまったポケモンもポケモンだ。普通の奴はボールから出た瞬間に技を使わないし、意図的に技を外したり受け流したりはしない。
天に打ち上げられた毒の塊がバトルフィールドに降り注ぐ。ユウジも指示を飛ばしていたが、直前の二度蹴り≠ェいい仕事をした。邪魔もされずに有利なフィールドを得られた。
設置時にすでに地面にいたイワークが毒に侵される。苦しそうに呻き声を上げ、肩で呼吸をし始めた。後一撃、二撃程度で押し込める。
「毒針」
様子見か、少し離れた位置で攻撃を開始する。通常時ならば潜って回避していたであろうそれを、砂嵐によって叩き落した。弱まっていた砂嵐が再度巻き上がる。砂が目に入ったのか、沙月の動きが固まる。
「回避に専念しよう。大丈夫、時間があるのは僕らのほうだ」
砂嵐の中で目をこするのは悪手のような気もするが、気持ちはわからなくもない。今をどうにかしたくて動く沙月の行動を咎めなかった。安心感という名の余裕は大事だ。
特に、バトルがそこまで得意ではない沙月はそれが顕著に出る。焦りによって動きが乱れるのだ。張り切り≠ヘいい意味でも悪い意味でも、本人の気持ちに左右される。
「ふざけるな。地震だ、イワーク!」
その余裕を潰すためにイワークが地面を揺らす。上下に激しく揺れ、軽い沙月を宙へと浮かせた。岩落とし≠ノよって落とされた軽い岩と共に持ち上げられ、余分にダメージを受ける。砂嵐はまだまだ維持されるだろう。岩タイプ相手に、炎李も鋭侍も出したくないはずだ。
唯一相性が有利である氷河も、自身の巻いた毒菱≠ノよってできれば交代したくない状態になっている。沙月が倒れれば一気に形成が不利になる。一見すれば盤面を掌握できていたが、ここまで追いつめられるのであれば毒菱≠ヘ軽率だったか。
「沙月、大丈夫?」
責任感が強く緻密な計画によって盤面有利を保ち続ける。計画が頓挫すれば自責の念で空回りするかと思ったが、ちゃんと落ち着けている。
『
「畳みかけろ! 地震!!」
毒に侵されるイワークは、最後の力を振り絞るよう尻尾を持ち上げた。再度揺れる地面。
「踏ん張って、ここが正念場」
イワークも無理をしている。ここは炎李か鋭侍に後退してもいい盤面だ。一匹一殺に固執しているのか? 何のために……? ……。そういえば、合理性の塊のように見えてあれは何方かというなら情で戦いをしていたか。だから、常に自分が思い描く理想を叶えようとする。
「(お前にとって重要なのは、ポケモンが勝ちを持ってくることか)」
戦術として使い潰す術もあっただろうし、短期間であそこまでの信頼を得たのだ。使い潰された所でトレーナーが勝てるのであればと託すことだってアイツ等ならできる。
指摘すれば、バカ弟子は不思議そうな顔をしてオレに返答するのだろう。
揺れは収まり、相手の動きが止まった事を確認した沙月は前へと出た。遠目での判断は難しいが、恐らくまだ、目は瞑っている。臆することなく自身が持てる最高速を出すのは容易なことではない。
「跳んで」
「(どんなメンタルしてるんだ、オマエ等……!)」
強心臓すぎる。
躊躇なく跳んだ沙月の落下地点に居るイワーク。跳んでくることを理解しているイワークは追撃しようとしたが、毒によって力が緩んだ。
「二度蹴り」
二度目の効果が抜群の攻撃。
蹴り飛ばされたイワークは地面に叩きつけられ、着地が上手く決まらなかった沙月は地面を滑る。砂嵐が弱まり、状況がより明確になる。審判が旗を上げ、高らかに宣言した。
「イワーク、ニドリーナ共に戦闘……」
『うー。足、くじいた気がします』
「失礼しました。イワーク戦闘不能。ニドリーナの勝利!」
倒れて中々起きなかったから誤審を得たのだろう。目は回っていないし、比較的元気そうだ。
「(ま、虚勢だろうな)」
外に出続けている風音とかが顕著だ。地震の余波は平気で食らっているし、戦闘不能にこそなっていないがそこそこ追加でダメージを貰っていた。範囲攻撃技の余波を食らって、抗議する者はいないだろう。初めからボールに戻していればいいだけだ。
「ヘッドリーダー・ユウジのポケモンが三体戦闘不能になった為、フィールドチェンジを行います。使用時間は、30分を予定しています。その間、控室で待機していてください。外部との連絡、ツール等による情報の取得等は認められておりません」
ある種のトイレ休憩だと、観客が立ち始めた。場を和ます為か、現在までの状況。戦略等を実況と解説が語り合っている。対戦している二人にとってこの30分はかなりきついものになるだろう。集中力は絶対に切れる。
オレも休憩したい。具体的にはタバコ吸いたい。席はまあ、取られんだろ。
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