「なんで、なんでアンタみたいな人が……! アンタみたいな人が、ココに居ないんだ!」
無名のトレーナー。いくつもの大会を経験し、勝ち抜いたパーティだった。
先発のピカチュウ一匹に、あっけなくやられた。
チャンピオンのポケモンとも遜色なく、戦え抜けると思っていたパーティだ。
相手からすれば理不尽な言いがかりだろう。だが、納得できなかった。強いヤツが、真に強いヤツが、立つべき場所、得るべき名声があると思っていたから。
赤目の彼は少し困った顔で、どうしたものかなと頬をかいた。オレのパーティが全滅したからと、下山を手伝いはしたがその間、オレの疑問に答えることはなかった。
スタジアムが最高潮を迎える。ユウジの最後のポケモン。長らく見られなかったそれを、今、見ることができる。
「ハクリュー!」
中々見られないポケモン・ハクリュー。蛇のように細長い体躯。海や湖などの水辺に生息しており、プールの中にも潜ることができる。ハクリューの中には首や尻尾についている玉からエネルギーを放出し、天候を操ることができる個体がいる。ユウジのハクリューは、その、天候を操ることができる個体だ。
「炎李」
タイプ相性的には氷河に交代するという手がある。しかし、炎李は目の前に立つ強者を前に引きたくはないとバカ弟子に訴える。ならば仕方がないと、戦闘続行の意を示す。
「火炎放射」
「消火しろ」
ハクリューの首元にある玉が光り、それと同時に
「(ハクリューの発光が収まらない……? まだ、攻撃は続いている)炎李、注意して」
「ハクリュー、捕らえろ」
「(発生だけじゃない!?)炎李、捕まらないで! 躱して!」
「使い切ってもいい! リザードンを捕らえろ」
ドンッと、太い音とともに水柱が発生する。ギリギリの所で躱した炎李だが、それを何度も繰り返されれば体勢が崩れる。
「っ! 火炎放射で蒸発……!」
指示が遅い。炎李は
「水の檻にしろ! リザードンを出すな!」
「(なんと言われようが、油断はしない! 見極めはできる)」
一歩間違えれば、相手の命を取りかねない行為だが、ストップはかからない。
「炎李……っ! くそ、審判!」
『(……冷たい。苦しい。だが、戦わなければ)』
「リザードンのき、……!」
これ以上は命に関わると判断したバカ弟子がリザードンの戦闘が続行可能かの有無に関わらず棄権するという手を使う。やけになれば手遅れになりかねない場面だ。モンスターボールによる退避もできないとなると、この手しかない。
『(俺はまだ、戦える……!)』
「!」
トレーナーの判断を否定するように、力強い炎が水柱の中に灯る。
「(破られるのはマズイ……!)ハクリュー、何としても捕らえ続けろ!」
「
トレーナーの声に呼応するように、炎の勢いが増す。
水柱を蒸発させ、再び捕えようとするハクリューに火炎放射≠一発。エネルギー切れか、集中力が切れたのか、ハクリューの行動は失敗に終わった。
「(プールの水がなくなった。これで水の中に閉じ込められることがない)」
「(凄まじい火力だ。離れているのに、熱気が伝わってくる)」
追い詰められて気分が乗ったか、尻尾の炎は勢いよく燃える。消耗しているのは炎李だが、ハクリューの猛攻を凌いだことで流れが来たか。
「(気付いているか? バカ弟子。ハクリューはまだ、技を一つも使っていない……!)」
使っているのはハクリューとしての固有能力。
稀有な力ではあるが、使ってはならないものでもないのだ。
「(あの火力は危険だ。ラプラスが怖いが出し惜しみをする暇はない)雨を呼べ!」
雨乞い≠ナはない、雨を呼ぶ。ユウジの指示に呼応し、ハクリューの体が薄い光に包まれる。快晴だった空が一気に曇り、天から恵みの雨が降る。
雨粒が炎李の体を焼く。いいや、雨粒が焼かれているのか。水蒸気が炎李の体から立ち昇った。
「(すごい熱。猛火が発動している……?)火炎放射」
「躱して、アクアテール!」
「切り裂く、で迎撃!」
火炎放射≠躱し、その勢いのまま炎李に接近するハクリュー。炎李も両手の爪を伸ばし、アクアテール≠迎え撃つ。
「(切り裂くの色じゃないな。土壇場で何か覚えたか……?)」
アクアテール≠ニ切り裂く≠ェぶつかり合い、火花を散らす。威力は互角。ただ、攻撃の幅の広さだけで言えば炎李が上か。
「火炎放射」
「躱せ!」
切り裂く≠維持したまま火炎放射≠使用する。首を少し動かして回避をしたが、それによりアクアテール≠フ勢いが弱まった。
「切り裂く!」
相手の尻尾を振り払い、多分切り裂く≠カゃない技を叩き込む。ハクリューが悲鳴を上げて地面へと叩きつけられた。あの痛がり方は効果抜群の技だろう。
「ドラゴンクロー……?」
バカ弟子も技名が違うことに気付いただろう。効果抜群の技、地面に叩きつけられたことによって正解に気付けたか。
「(土壇場で覚えたか……!)」
「ハクリューを休ませないで!」
好機と捉えたバカ弟子が追撃を指示する。炎李もそうするべきと判断したのだろう。指示よりも先に動いたように見えた。
「逆鱗!」
一か八か。追い詰められたユウジが、逆鱗≠指示する。追撃に来た炎李のドラゴンクロー≠尻尾ではじき、体を起こすときの動きのまま頭突き。
「一旦引いて!」
逆鱗≠ヘ自らの感情を爆発させ、怒涛の勢いで竜の力を叩き込み、攻撃する技。それだけ聞けばとても強い、使い得の技のように聞こえるが、デメリットがある。一定時間が経過すると感情が落ち着き、反動から混乱状態に陥ってしまうのだ。
技の威力、速さが底上げされているのを知っているバカ弟子は怒りが静まるのを耐え、混乱状態を待とうとする。頭突きを食らった炎李も、脳天直撃だった為、何かしらの負荷がかかっている恐れがある。素直に従い、距離を取ろうとするがハクリューはそれを許さない。
バトルフィールドに一本の線が走る。その線を、バカ弟子はよく覚えているだろう。疾風も良く使用する技神速≠セ。
「(火炎放射は中らない。なら、受け止めて仕留める……!)ハクリューを捕まえて」
線になっているハクリューを捕らえるのは困難だ。真っ向から神速≠使われているにも関わらず、捉え切れていない。痛みが走った先に手を伸ばしてもそこにはもう居ないのだ。
「(良く見ろ、相手は疾風よりも遅い……!)右下!」
均衡が崩れた。炎李がハクリューを捉え、再度ドラゴンクロー≠叩き込み、地面にぶつける。痛みにより逆鱗≠ェ収まったのか、逆鱗#ュ動中に立ち上っていたハクリューの赤い闘志が消えた。
「っ! ハクリュー!!」
この逆鱗≠ナ炎李を倒し切りたかったユウジ。ただ、炎李も逆鱗≠フ猛攻により瀕死寸前。ハクリューの時に見たような闘志が炎李から立ち上る。炎李の場合は逆鱗≠ェ発動したという訳ではなく、特性の猛火が発動したということ。技の受け方次第では一発で戦闘不能に追い込まれる。
何とか立ち上がり、炎李と対峙するハクリュー。ぴかりと、ハクリューの体が白い光に包まれた。見る見るうちに体躯が変化し、四肢が生え、直立歩行可能な姿となる。
目の前で起こった進化に観客は沸いた。バトルで追い詰められた最中の進化ということもあるだろうが、一番はハクリューの進化先がカイリューだからだろう。ここ、カンキツ島は古くからカイリューを島の守り神として信仰しており、伝説が薄れた今でもその信仰は根強く残っている。
故に皆が期待した。もしかしたら、ここから、ここからの巻き返しがあるかも、と。
「ドラゴンダイブ!」
カイリューが吼え、炎李に向かって突っ込む。
「ドラゴンクロー」
迎え撃てと、炎李に指示をする。応えるように炎李も吼え、その体は見る見るうちに炎に包まれた。
「!?」
指示無視。猛火によって更に火力を増した炎はドラゴンダイブ≠ニぶつかり合い、派手に爆発。耐えられなかったのか二匹が空から降ってくる。
「炎李!」
「カイリュー!」
地面に伏した二匹を見守る両者。
起き上がろうともがく炎李と、ゆっくりではあるが体を起こしたカイリュー。それを見て、審判が判断を下した。
「リザードン戦闘不能。カイリューの……」
ドサッと、カイリューも地面に伏す。
「リザードン・カイリュー共に戦闘不能。総合判定により、勝者チャレンジャー・津波!」
「おめでとうございます! ここ数年現れなかった新たな記録保持者! 名誉トレーナー・津波! ここに、新たな歴史が刻まれました!」
「素晴らしい戦いでした。緻密な戦術、技の使い方どれをとっても、最善手でした。改めて、殿堂入りおめでとうございます」
モンスターボールに戦闘不能となったポケモンを戻し、蓋がされたバトルフィールドを歩く。
「おめでとう、津波ちゃん」
「ありがとうございます」
「素晴らしい戦いだった。わたしもまだまだ未熟者だと再認識させられたよ」
和解のための握手をしながらも、会話をする二人。マイクは切られているようで二人の声は聞こえない。ただ、何方の表情も穏やかだったことからお互いを褒め称えていると予想された。
奥からスタッフが記念品であるトロフィーを持ってきた。ユウジがそれを渡した時、観客も拍手を大きくなる。観客の声援に応えるように、手を振る。殿堂入りの準備があるからと奥に連れられた二人を見、スタジアムはまた静寂に包まれた。
奥では激戦を戦い抜いたポケモンたちとトレーナーの手形が取られる。
スタジアムの前で記念撮影をするのだが、それを知っている者たちが詰めかけている。
戦闘不能になった鋭侍と炎李も奥で簡易回復をしてもらったのか、しっかりした足取りで歩く。
大柄なポケモンが多いため、撮影スタッフは位置調整に少し手間取っていた。
「…………」
津波の手持ちで唯一、誰も倒せなかった鋭侍。
暗い表情のまま出てくるかと思ったが大丈夫そうだ。
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