何のためにここに居た、何のためにここを選んだ!
必要なんてなかった! そう口にすれば、否定されるだろう。
慰めは要らぬ。事実だけを口にしてほしい。そう言えれば良かったか。
罵倒されたらされたで、悲しいと思うどっちつかずの愚か者だ。
マーコット島に着いたのは殿堂入りを果たしてから一週間後のことだった。季節は秋に入ったもののオレンジ諸島という地域が影響してか、ちっとも涼しいとは感じなかった。日差しはさんさんと照り、肌を焼く。日焼け止めは塗っているのだが少し黒くなったような気もした。
「お疲れさまでした、津波くん。中継、見てましたよ」
「ありがとうございます。これ、ストライクのボールです」
マーコット島のジョーイさんが温かく出迎え、殿堂入りを祝ってくれる。挨拶もそこそこに、ここに来た目的を果たすべく、鋭侍のボールをジョーイさんに渡した。機械に通された鋭侍のボールは何らかの処理をされ、僕へと返却された。このまま別れかと思っていたのだが、違うらしい。
「処理は完了しました。そのモンスターボールは本日中に破壊されます」
「破壊、ですか」
「爆発はしないので、安心してくださいね」
危険物でも渡されたのかと身構えたが、違うらしい。
「機能停止みたいな感じですね。中にポケモンがいた場合は自動的に野生に返されます」
「どこで返せばいいですか」
「裏庭に行ってください。ラッキー、案内をお願いね」
ついてきてと、鳴くラッキーの背を追いかけ、裏庭へと向かう。人気が無い裏庭は、新たな挑戦者を待つストライクたちがちらほらと見えた。モンスターボールを投げ、鋭侍を外に出す。
青い光に包まれて出てきた鋭侍を見、このモンスターボールはもう使えないのだと改めて理解した。
「鋭侍」
ボールから出てきた鋭侍はうろうろしている。迷子のように視線が泳ぎ、繋がりが消えたことを本能的に理解しているようだった。弱弱しく鳴く鋭侍を見て、どうしたものかと苦く笑う。
この場のどのストライクよりも強い癖に、そんな顔してたら弱く見られちゃうよ。
「…………」
どうするべきだろう。このままスッパリ別れるには、僕らは仲良くなりすぎた。
鎌は危ないので鋭侍の腕を掴み、やんわりと引く。微弱な力に引き寄せられ、鋭侍は素直に僕の先導を受け入れた。
見覚えのある木の下に座り、風音を膝の上に乗せた。鋭侍はじっと僕たちを見ているが、何かをいうことは無い。視線が痛いと風音に逃げるが、風音も風音で鋭侍なんて眼中になく、僕の手を受け入れる。
『御館様……』
その音は、聞き覚えがあると鋭侍を見た。僕を呼ぶ声だ。
オレンジリーグ・ウィナーズカップ優勝。無事、殿堂入りを果たしてからも鋭侍とは何度か顔を合わせた。ただ、ここまでちゃんと顔を見たのは一週間ぶりか。
「久しぶりに顔見せてくれたね。なぁに?」
もう、僕との繋がりは消えたのに情を残してくれる鋭侍に甘えて手を伸ばす。
『…………』
拗ねてしまった。手は受け入れてくれるけれど、喋ってくれない。
喋ってくれるまで待つべきか。それとも、切り込むべきか。この一週間、僕は鋭侍に何も言わなかった。鋭侍の戦い方を決めたのは僕だし、負けたことに関しては鋭侍が気にする必要はないのだけれど……。
「(鋭侍なら気にするよなぁ)」
自己研鑽の為に、一時的にトレーナーの元に行く傭兵のストライク。
自分の実力を疑わず、更なる強さのために戦うと決めた子。他のストライクはどうなのか知らないけど、この子は僕の仲間の中でも特に責任感が強い子だ。不甲斐ない自分を責め、項垂れている。
「(声のかけ方、間違えないようにしなきゃ)」
正解なんてわからないけれど、鋭侍が奮い立つことができればきっと、それが正解だ。
「鋭侍は僕の判断が間違っていたと思う?」
『……いいえ』
少しの間。首が左右に揺れたことから、否定されたと判断する。
「僕はね、間違っていたと思うよ」
無情に、最も勝てる選択を取れば良かったのだ。君が自分を責めるのなら、僕のあの時の判断は熱に浮かされ、まともに状況を見られなかった愚か者ということだ。実際、ディランさんならそう云うだろう。
「君がそんなに気にするのなら、出さなければよかったと思う」
『……っ! 拙者は、拙者は……! なにもっ、なにもできなかったのです……!』
「君を勝たせてあげられなかった僕を責めるべきだ」
必死に否定をする鋭侍を冷めた目で見る。思い出すだけでも腹立たしい。疾風によってかなり削られていたとはいえ、相性の不利。決定打はカウンター≠ョらい。瀕死二歩手前ぐらいの鋭侍はそう何度も攻撃を貰えない。戦況は、カウンター≠決定打にさせてくれなかった。
カウンター≠警戒し、剣の舞≠ノよって次の一撃で仕留めるという道筋を見せて、相手側の決定打はギガインパクト=B反動技だが、確実に鋭侍を持っていかれた。僕が迷えば反動で動けない時間もどうにかなり、もう一人二人と持っていかれていた可能性すらある。まあ、炎李が全部片付けたのだけれど。
「……。あと三日ぐらいはこの島にいるよ」
『?』
訳が分からないと、鋭侍は疑問符を浮かべながら瞬いた。
「何のために僕の所に来たのか。……もしかして、忘れちゃった?」
本当に忘れてしまったのか、鋭侍は狼狽えながらもこくりと頷いた。
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