Number.004
 トレーナーズスクールにある寮を出、家に戻る。荷物は自分のものをダンボールの中に入れ、自宅へ送った。家に帰るとおさんの温かいご飯を食べて、眠って、旅に出る準備をする。
 4月に旅立つ者ようのパンフレットと、ハガキは大事なものだから無くさないように、リビングのコルクボードに貼り付ける。ダイニングテーブルの上にパンフレットを並べて、気になったものに印と、付箋をつけていく。
「光葉。今、どんな感じ?」
 湯気の立ったボクのマグカップが邪魔にならない位置に置かれる。お母さんはボクの対面に座り、ボクが今まで見てきたものをジッと見つめた。
「えっと……、鞄はね、リュックサックにしようと思ってるんだ」
 パンフレット中での選択肢はボクが選んだデイパックリュックサックを含め3つあり、残り2つはショルダーバック・トートバックだ。トレーナーズスクールで使用していた鞄がリュックサックだった為、同じにしようと思った。
「デイパックね。いいと思うわ」
「リュックサックじゃないの?」
「リュックサックのお友達、仲間よ。候補の中では1番物が入らないけれど、その代わりに重量軽減がついているわ。どの色にするの?」
 お母さんはにっこりと笑って、賛成してくれる。
「あお!」
 青色が好き。だから最初のポケモンは、ワニノコがいいの。
「靴も青色にする?」
「うん、青がいい」
 恐る恐るマグカップをもって、ふうふうと息を吐く。大丈夫かな? と、ちびちび飲んだ。うん、あったかい。● ● ● 忘れ物は無いかと、何度も確認をした。大事なハガキも入れた。
 心配そうに念を押すお母さんに「大丈夫だよ」と、返してお坊さんのいるキキョウシティへ向かった。
「お坊さん、光葉のことよろしくお願いします」
「はい。しっかり、ワカバタウンまで送り届けますよ」
 キキョウシティまで送ってもらい、そこからはお坊さんと歩いてワカバタウンへ向かう。
 コガネシティにも、ポケモン研究所はあるのだけれどそこではなく態々、少し遠いワカバタウンへ向かう。理由はわからないけれど、先生が選んでくれた研究所だからとても楽しみ。
「お坊さんは、塔の管理はしなくていいの?」
「他の者がいるので大丈夫ですよ。わたしもウツギ博士にお話があったんです」
「そうなんだ」
 お坊さんはお着物じゃなくて、普通のお洋服を着ていた。見慣れない服装のお坊さんをジッと見上げた。照れくさそうにお坊さんは笑って「変ですか?」と、聞いてきたのでボクは「お着物じゃないから」と、あんまり良くない言葉を返した。● ● ● 当日にワカバタウンに到着し、ボクらはウツギ研究所へ向かった。そこでボクとお坊さんは別々の部屋に案内される。ボクが案内された部屋には既に大人の人と、ボクと同じようにポケモンを貰いに来た子たちがいた。
「こんにちは。ハガキを確認させてね」
 研究所に入る前に見せたハガキを、また渡した。確認を終えた人は「ありがとう」と、言ってボクらに向き直った。ハガキを確認した人は、ポケモン研究者のウツギ博士。軽い自己紹介が入り、博士はボクらに聞いた。
「キリトくんに、ミナヒサくん。光葉くん、準備はいいかい?」
 頷きを待って、博士は3つのモンスターボールを投げた。
「草タイプのチコリータ・炎タイプのヒノアラシ・水タイプのワニノコ」
 ワニノコだ……! 本物は初めて見た。
「博士! オレ! ヒノアラシが欲しい!」
「到着が1番早い自分が真っ先に選ぶ権利があるのでは? あ、自分はワニノコがいいです」
「は? オレとお前は僅差だっただろ! ふざけんなよ」
「お口が悪いですよ」
 睨みあう2人を見て、どうしようかと目線を泳がせる。最後に来たのはボクだから……ボクが、最後? 最後だったら、ボクが貰うのはチコリータ。
「光葉くんは欲しい子を決めた?」
「え、あ……。えっと、その……」
 ウツギ博士の後ろにいる2人の視線が痛い。取次筋斗(しどろもどろ)になりながらもボクは、「チ、チコリータがいいです」と、答えた。本当はね、ワニノコがいいの。でも、でも、2人の視線が怖いし、中途半端なボクが引いたほうが丸く収まると思うの。
「そっか。それじゃあ、綺麗に収まるね」
 博士はボクらにそれぞれ、選んだポケモンの入ったモンスターボールと、空っぽのモンスターボール5個。〈ポケモン図鑑〉と、〈身分証明書〉を手渡した。6匹を超えるポケモンを捕獲した場合、7匹以降は自動的にウツギ博士の元へ転送される。
 ボクらは真新しいポケギアの番号を博士に教える。その時に博士は「せっかく同じ日に旅立ったんだから」と、ボクらも番号を交換するといいと笑う。2人は元々知り合いみたいだったから、ボクだけが蚊帳の外。……お友達になれるのかな?
 博士の提案を2人は渋々受け入れて、ボクと番号を交換する。家の番号と、ウツギ博士の番号。後は、キリトくんに、ミナヒサくんの番号。
「いってらっしゃい」
 ウツギ博士に見送られて、3人で歩く。トコトコと、歩く。
 ワカバタウンから29番道路へ差し掛かる境界線にて、彼らは足を止めた。