そうやって、しばらく空を眺めていたわたしの顔に、ふっと大きな影が差し込んだ。 「なんだ、用は済んだのか?」 運良くセルはわたしの居場所に気付いたらしい。 「ええ、あなたも無事だったのね」 ラジオを止め起き上がる。 「わざわざ研究所へ何しに行ってたんだ」 「今のあなたが気にするような事ではないわよ」 「答えになってないぞ」 彼なりにいろいろと気になるようだ。でもわたしはあえて答えるつもりはなかった。 「それより、17号たちを探すのが先よ」 「ちっ…」 案の定不満げにわたしを睨みつつ、セルは丘の先に広がる街に目をやる。 「ヤツらもどうせ孫悟空を探しに行っているに違いない」 「そうね。確かにそうかもしれないけど、 彼らがドクターの意志どおり行動しているとはなかなか考え難いわ」 「まあな」 彼らは自分の意志とは裏腹に、無理矢理改造された人造人間。わたしの次元でもあれだけの奔放さだったのだから、何となく検討はつく。 「でもしばらくの内は心配ないはずよ。17号たちもかなりの強さを持っているし、彼らを殺せる者なんてまずいない。緊急停止用のコントローラーも無いのだから。あなたは時間の許す限り、より多くエネルギーを集めておく事ね」 「もちろんそのつもりだ」 「その量によっては、後々完全体となった時の差も大きいわ」 「ほう…そうなのか。こいつはいい事を聞いた。お前は良くも悪くも頭が回るな」 セルの意地悪なセリフに思わずわたしは苦笑いした。そんな彼もどこかそれを楽しんでいるように見えた。 「念のため、わたしは孫悟空の家へ向かってみるわ」 わたしは早速17号たちの足取りを追うため、東の山村へ向かう事にした。 …が、セルに背を向け歩き出すわたしを、彼が急に止めた。 「待て」 振り向こうとした瞬間、突然目の前に彼の尾が。その先端を顔で交わす。 「…これはどういう意味?」 「ふん、それなりにできるようだな」 「…?」 突然の彼の行動にさすがに妙な気分になった。第一、殺気が無い。ただわたしの反応を見たかったのか… 「そう勘ぐるな。別にお前を吸収しようなど考えてもいない」 ポツリと彼は答える。何を考えているのだか。疑わしくもなるが、ここはあえて彼を立てることにした。 「あなたならすぐわたしを超えられるわ。あなたは大いに可能性を秘めているのだから」 「随分とおだてるな」 セルは何かを察するように反応する。 「あなたに期待しているということよ」 「…なるほど」 疑い深い返事。勘ぐらせてるのはお互い様なのかもしれないけど、わたしには、彼に信用してもらう必要がある。ドクターの意志を果たす為にもそれが重要だから。 「セル、一つ約束してほしいの」 「約束?」 「あなたが完全体となるまで、必ず最後まで見届けさせて」 真剣に話すわたしに何故か彼は笑った。 「くくく…何を言うのかと思えば、そんな事か。お前の好きにすればいいだろう、私に聞くまでもない。」 「それでは意味がないのよ。完全体のためにもわたしが手を貸すのだから、少しは信用して」 「それは考えておく」 相変わらず笑いながらも、セルはそう言うと街へ向かい走り去って行った。 「もう…」 気ままな人…結局彼も17号たちとさほど変わりがないじゃない。 この先も手を焼く事になるのかと少々面倒に感じながらも、わたしはとにかく東へ向かうことにした。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |