Story:09 胸騒ぎ再び-2-



誰もいなくなった島でまた独りの時間が訪れた。


体は相変わらず痛むが、あれ程の近距離で攻撃されたのなら、普通この程度で済むはずがない。16号はそれを分かって手加減をしたようだった。

「悔しいけど、彼には感謝しなくちゃいけないわね…」

そうつぶやきつつ、わたしは目を閉じしばらく体を休めることにした。



気付かぬうちに一時が過ぎ、ふと空を見上げる。遠くから何かが近づいて来るのを感じたからだ。

この気は…?

猛烈なスピードで海上を通り過ぎる一人の人物が目に入った。
よく見るとそれはベジータだった。

何故彼が…

まさかセルを追ってきたの…?

ベジータが飛んで行った方向から考えると何となく検討は付くが、彼の気が思いのほか随分と大きく感じられた。

妙な予感がする。

セルの言うとおり、のんびりしてはいられないのかもしれないわ…


重い体を持ち上げ、立ち上がる。が、力がうまく入らない。まだ体は思うようには動かない。

「こんな時に…!」

食いしばりながらも、痛みにただ耐えるしかなかった。




その時だ。
もう一つの気が再び近づいて来るのに気がついた。

これは…
トランクス…?


すぐ様上空を過ぎて行ったかと思うと、海の向こう側で止まるのが見えた。

どうやらこちらに気付いたらしい。
そして何を思ったのかトランクスは引き返し、わたしがいる島へと降り立った。


すぐそばまで歩み寄るトランクス。地下研究所で会った時より、どこか雰囲気が違う。



「…何か用でも?」

するとトランクスはおもむろに何かを取り出し、わたしへと差し出した。彼の手にあったのは…仙豆だ。

「別に助けたい訳じゃない。少なからずこの前の借りがあるからだ」

そんな彼の意外な行動にわたしは思わず驚いてしまったが、次第に自然と笑みがこぼれた。

「律儀な人ね。でも受け取るつもりはないわ。後であなたが必要になるかもしれないわよ」


その返答にトランクスは何か言おうとしたようだが、わたしはその仙豆を彼が取り出した場所へとしまい込んでやった。トランクスは戸惑いながらも何かを考えている様子だ。


「一つあなたに伝えておきたいことがあるの」

「伝えておきたいこと…?」

「あなたはドクターゲロやその人造人間たちのことを随分と批判しているようだけど、どんな者にも何かしら理由があるものよ」

トランクスは何も言わずわたしを見つめている。

「あなたも理由があってここにいるのでしょう?」


するとしばらく黙っていたトランクスは、突然思いも寄らぬ言葉を返してきた。

「お前は…何故ドクターゲロに従ってるんだ?」


何を言い出すのかと思えば、それはあまりにも唐突な言葉だった。

「何故って…どうしてそんなことを聞くの?」

「質問に答えてくれないか」

驚くわたしに構わず彼の目はどこか真剣だ。だが一体何を思って言っているのか…わたしには全くわからない。

「ドクターを信じているからよ。わたしにとって彼は家族のような人だから。それが理由じゃ…ダメかしら?」

「か…家族…?」



トランクスが言いかけたその時、遠くで大きな気が爆発した。

この気はさっきのベジータ…!?


「始まったな…」


気が感じられたその方向に視線を向けトランクスがつぶやく。どうやらまた完全体を阻むものが現れたようだ。

「まさか…ベジータはセルと…!?」

トランクスは一瞬わたしを見るなり上空へと飛び立った。急に居ても立っても居られない気分になり、わたしもトランクスを追い飛び出す。


怪我のことなど既に忘れていた。

完全体への道…一筋縄ではいかないのは分かっている。

でもどこか落ち着かないこの気持ちは何…?



わたしはセルがいる島へと急いだ。

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