誰もいなくなった島でまた独りの時間が訪れた。 体は相変わらず痛むが、あれ程の近距離で攻撃されたのなら、普通この程度で済むはずがない。16号はそれを分かって手加減をしたようだった。 「悔しいけど、彼には感謝しなくちゃいけないわね…」 そうつぶやきつつ、わたしは目を閉じしばらく体を休めることにした。 気付かぬうちに一時が過ぎ、ふと空を見上げる。遠くから何かが近づいて来るのを感じたからだ。 この気は…? 猛烈なスピードで海上を通り過ぎる一人の人物が目に入った。 よく見るとそれはベジータだった。 何故彼が… まさかセルを追ってきたの…? ベジータが飛んで行った方向から考えると何となく検討は付くが、彼の気が思いのほか随分と大きく感じられた。 妙な予感がする。 セルの言うとおり、のんびりしてはいられないのかもしれないわ… 重い体を持ち上げ、立ち上がる。が、力がうまく入らない。まだ体は思うようには動かない。 「こんな時に…!」 食いしばりながらも、痛みにただ耐えるしかなかった。 その時だ。 もう一つの気が再び近づいて来るのに気がついた。 これは… トランクス…? すぐ様上空を過ぎて行ったかと思うと、海の向こう側で止まるのが見えた。 どうやらこちらに気付いたらしい。 そして何を思ったのかトランクスは引き返し、わたしがいる島へと降り立った。 すぐそばまで歩み寄るトランクス。地下研究所で会った時より、どこか雰囲気が違う。 「…何か用でも?」 するとトランクスはおもむろに何かを取り出し、わたしへと差し出した。彼の手にあったのは…仙豆だ。 「別に助けたい訳じゃない。少なからずこの前の借りがあるからだ」 そんな彼の意外な行動にわたしは思わず驚いてしまったが、次第に自然と笑みがこぼれた。 「律儀な人ね。でも受け取るつもりはないわ。後であなたが必要になるかもしれないわよ」 その返答にトランクスは何か言おうとしたようだが、わたしはその仙豆を彼が取り出した場所へとしまい込んでやった。トランクスは戸惑いながらも何かを考えている様子だ。 「一つあなたに伝えておきたいことがあるの」 「伝えておきたいこと…?」 「あなたはドクターゲロやその人造人間たちのことを随分と批判しているようだけど、どんな者にも何かしら理由があるものよ」 トランクスは何も言わずわたしを見つめている。 「あなたも理由があってここにいるのでしょう?」 するとしばらく黙っていたトランクスは、突然思いも寄らぬ言葉を返してきた。 「お前は…何故ドクターゲロに従ってるんだ?」 何を言い出すのかと思えば、それはあまりにも唐突な言葉だった。 「何故って…どうしてそんなことを聞くの?」 「質問に答えてくれないか」 驚くわたしに構わず彼の目はどこか真剣だ。だが一体何を思って言っているのか…わたしには全くわからない。 「ドクターを信じているからよ。わたしにとって彼は家族のような人だから。それが理由じゃ…ダメかしら?」 「か…家族…?」 トランクスが言いかけたその時、遠くで大きな気が爆発した。 この気はさっきのベジータ…!? 「始まったな…」 気が感じられたその方向に視線を向けトランクスがつぶやく。どうやらまた完全体を阻むものが現れたようだ。 「まさか…ベジータはセルと…!?」 トランクスは一瞬わたしを見るなり上空へと飛び立った。急に居ても立っても居られない気分になり、わたしもトランクスを追い飛び出す。 怪我のことなど既に忘れていた。 完全体への道…一筋縄ではいかないのは分かっている。 でもどこか落ち着かないこの気持ちは何…? わたしはセルがいる島へと急いだ。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |