Story:12 訪れた安息-1-



遠くから微かに響く声…


一筋の光が揺らいでる……あれは何…?




あれは……



紅く…深く燃える……

まるで炎のよう。



その先に見えるものが知りたい



あれは…誰なの……?

ドクターなのかどうか…もうわからない




よく見えない…

もっと近づきたい…



もっと…

もっと側に…





こんなに



こんなに手を伸ばしてるのに…








次第にその手に、腕に、頬に、ふわりとあたたかみが感じられ、わたしの視界に現実が戻る。

そのすぐ先には、目覚めたわたしを静かに見つめる紅い瞳があった。
その瞳はどこか深く…まるで沈んでいた記憶を呼び覚ますような、それでいて思わず震撼させるような…不思議な瞳だった。


それでも何故だろうか、こんなにも安心できるのは…

もしかして…



「…セル……?」

相手がふっと微笑んだように見えた。

その顔に…
何とも言えない揺れるような感情が、身体の奥底から波紋のように広がっていくのが自分でもわかった。


この気持ちは一体……




「…しばらくぶりと言うべきか、それとも改めて自己紹介でもしたほうがよいかな?」

わたしを抱きかかえながら悪戯っぽく笑う。

「あなたは…」

「ふふ、冗談だ。安心しろ、事は済んだ。お前も今は何も考えずに休んでいればいい」

その言葉に小さく頷き、わたしはか細い息を吐きつつも彼の胸に身を任せた。

こうして目が覚めるたびに、わたしの目の前にはまるで別人のような彼が現れる。とはいえ、それはただ見た目が違うというだけ。

そう。こうして身体がボロボロになる度、わたしの側にいたのはいつも彼…
セルだった。

でもそれは何を意味するのかなど、その時のわたしにはまだ分からなかった。




時折息が苦しくなる。
身体に受けたダメージは限界に近づいていた。

そんなわたしを案じながらも、

「何もしてやれないというのは、こうももどかしいものなのか…」

どこか苛立ちを抱いているかのような表情を見せ、セルはつぶやく。

「また…足でまとい…ね」

口に出した声は、かすれながら風に流されていく。

今のわたしはどう考えても彼のお荷物みたいなものだ。トランクスに対し、力が完全に劣ることを承知で行動に出たわたしは…きっと彼の目には、無謀で愚かな者としか映らないのだろう。

…が、セルから出た言葉は一つもそう思わせる欠片もなかった。

「もう急ぐ必要も無い。ようやく時間が出来たのだ、そういう話はやめておけ」

その言葉を耳にし、ようやくわたしはセルが完全体へとなったのだと理解した。

「…セル…あなた、完全体に…」



するとセルはわたしの頬に触れ、またあの表情を見せた。自信に満ちあふれた、まるでわたしを大きく包むような…

今はこの人になら、わたしの全てを委ねてもいいのかもしれない…何故かそう思わせる。

セルって…こんな人だったの…?何だかわたしのほうが変な気分に誘われてしまう。

「こうして完全体の姿をお前に見せることもできた。しばらくは二人の時間だ」

相変わらず笑みを浮かべながらの台詞だ。これって…わたしを半分からかってるの…?

「随分と…ロマンティックなこと…言うのね…」

「可笑しいか?」

「あなたが…何だかあなたじゃ…ないみたい…」

わたしの言葉に首を傾げるセル。その何気ない仕草にさえ、まるで不意を突かれたように反応してしまう。

何だろう…こんな気分は初めてだわ…

「それはどういう意味か気になるな。後でゆっくり教えてもらおうか」

そう言ってセルはわたしをその場で寝かせた。

- 33 -



*前次#


ページ:

ストーリー:











小説TOPページへ

サイトトップページへ