Story:13 困惑と憤懣(ふんまん)-2-




「9日後ここでセルゲームを行うぞ」

「…セルゲーム?」

舞い戻って来たセルは、実に楽しげにその言葉を口にした。

「過去に天下一武闘会というのがあったのは知っているか?それを再現することにしたのだ」

「名前は聞いたことがあるけど…まさかそれを伝えるためにTV局へ?」

「あれなら孫悟空の耳にも入るだろう。それに限らず腕に自信のある者がいればより楽しめるということだ。もちろん相手になるのは私だけだが」

彼の自由奔放で気ままなその発想に、わたしは唖然となってしまった。

「…あなたって何て言うか、随分と予想を超えたことを考えつくのね。ドクターが仕込んだ頭脳とはいえ、そういう面白い発想が出来るなんて、何だか意外だわ」

そんなわたしの話に、セルは何やら顔をしかめた。その表情の変化に気づいたわたしは、問いただそうとした。

が、その時だ。
何やら視界の向こう側に別の人影を感じた。

あれは…?




「…孫悟空か」

セルは既に気付いていたようだ。
彼の後ろにたたずむその男は、金色の髪をなびかせ、今まで見た者とはまた一味違う雰囲気を醸し出している。

あれが孫悟空…!


「どうだ、ここが9日後に世界の運命を決めるセルゲームのリングだ。気に入ったか?」

いつの間にか現れたその男に、セルは動じることもなく冗談交じりに話しかける。

「運命を決めるにしちゃ、せこいリングだ」

対する孫悟空も表情を変えず答える。

この男…いきなり何をしに来たの…?だが、動揺し始めたわたしとは裏腹に目の前の二人はあくまで冷静だ。

「そいつが完全体か…」

「そういうことだ」

「試合には必ず出てやる、それまでは誰も殺すんじゃねぇぞ…いいな」

孫悟空のその言葉にセルは含み笑いするが、二人はどこかお互い睨み合っているようにも見える。
すると、じっとリングの端でその様子を見ていたわたしに孫悟空は視線を移した。

「トランクスから仙豆を預かってる、お前に渡して欲しいってよ」

そう言って彼は一粒の小さな塊をこちらへ放り投げた。わたしは掴んだその手の内を確認する。

…確かに仙豆だ。

わたしの脳裏には、再びあの時の光景が浮かんだ。


何故セル本人でもないわたしが、身をボロボロにしてまで完全体に執着するのか…投げつけられたトランクスからの強い疑問。どこか彼も必死だったように思える。あれって…まさかわたしに説得でもしようとしていたの?

とは言っても結局彼は、遥かに上回る力でもって、わたしを押さえつけたのだ。そんなトランクスに未だに何か拭いきれないものがあるのだろうか。
わざわざこんなことをする必要がどこにあるのかしら…何となく気分がすっきりしないのも、このせいなのかもしれない。


「随分と親切なのね、礼を言うべきかしら」

「おらは事情は知らねぇ、頼まれただけだ。言うならトランクスに言ってくれ」

そう言って孫悟空はいい試合になりそうだとセルに告げ、気配も残さず消え去って行った。

- 36 -



*前次#


ページ:

ストーリー:











小説TOPページへ

サイトトップページへ