「やはりその程度というわけか」 まるで見下されているようで次第に悔しくなる。わたしは何も言えず、うつむいてしまった。 「お前はドクターゲロのことは考えていても、自分自身のことは何も考えたことがないようだな」 少なからず心当たりはある。が…ためらうわたしをよそに、またもセルは意外な話を口にした。 「自分自身で決められないと言うなら、私が決めてやる」 え…? 「私が完全体としてどこまで通用するかその目で見届けろ。ま…他に通用する者など存在しないはずだがな」 これは彼がわたしを試しているのか、それとも気を利かせているのか…彼は、セルは何故こんなことを言い出すのか。何を思ってこんなことを言うのか。 こんなことを言われて困惑するのはわたしのほう。でも…ドクターがいたら、彼はわたしにそう告げるのだろうか。 「わかったわよ、それなら…」 わたしが言いかけると、セルはすぐさま言葉を返してきた。 「頭を使い、言葉を選んで話すのは悪いとは言わん…だが、またドクターゲロのことを考えて発言しているんじゃないのか?」 思わずわたしはセルの方へ振り向いた。 「…呆れたやつだ。この世に存在しない者に頼って何になる。お前はそいつの操り人形か?」 「ば、馬鹿言わないで…!あなたにはわからないわ。ドクターはわたしにとって特別なの、家族同然なのよ!ドクターはあなたを作るために何をしてきたのか、あなたは今誰のおかげで存在しているのか考えるべきだわ…!」 困惑に加え、次第に怒りにも似た気持ちが湧いてくる。 まさかセルがここまでわたしを煽るような言葉を口にするなんて。17号や18号のドクターを嫌う理由など、まるで子供の我がまま同然と捉えてきたが、この完全体となったセルとなると、まるで本質的な部分に直接拳を振りかざされるようで、それこそわたしはセルに対し不信の念を抱かずにはいられなかった。 「そうだな、ドクターゲロは私を造り出すためにひたすらコンピュータに計算させ続けた…知っているのはそれくらいだ。それ以外に何をしてきたかなど知る訳もなかろう。第一知りたいとも思わん。私が今こうやって存在するのは、自分自身の力で成し得たものの結果だ。確かに少なからずお前の助けもあったことは認めるし、お前には感謝している。だがそれ故に言えるのは、今ここに存在しているからこそだろう」 「お前は考えたことはあるか?なぜ我々は存在しドクターゲロは死んだのか」 今度は何を…言い出すの…? 「答えは簡単だ。そいつが弱過ぎたか、あるいは頭が悪かった、それだけだ」 目の前がまるで凍りついたような衝撃を受けた。何より大切なドクターへ向けられた言葉が、こんなにも侮辱的であることに言いようのない怒りがこみ上げてきた。 「…運命だとでも思ったか?」 何を言うの… 違う…違うわ… ドクターが死んだのはわたしの… 「おまえ自身のせい、とでも言いたげだな」 まるで見透かされたような言い草に、わたしは思いがけず殺気立った。だが、セルはあくまで大きく構えたままだ。 「お前は一つ大きな勘違いをしている。ドクターゲロが死んだのは、そいつ自身が選んだ行動の結果だ。お前が一人悩んだところで、どうにもならん」 「な…何よ…それ…」 「その結果を生むべく原因を作ったのはドクターゲロ自身だと言っているんだ」 「どういう意味か…わからないわ…」 「そうだな、言い直そう。パワー、知能、精神力、あらゆる強い力を求める世界に生きる者こそ、弱い者は埋もれ、いずれ死ぬ。そういうことだ」 わたしは冷静さを取り戻すのに必死だった。言葉が見つからず反論さえできない自分に苛立ちながら。目の前にいるセルはそれさえも見抜いているようで、更にわたしの苛立ちは増す。 でも、抑えなければ… わたしは…彼を信用するしかないのだから。 彼はドクターが残した最後の希望… だから落ち着かなくては… 「あなたの話…よくわかったわ。いかにもあなたらしい発想ね」 ようやく気持ちを抑えたわたしを見るなり、セルは思案するように再び答える。 「ドクターゲロのために生きる、それこそがそいつに対する慈悲だとお前は考えているようだが、私にはとんだ滑稽(こっけい)な話だ」 背を向け聞かない振りをしつつ、わたしはリングを下りて行く。 だがそのすぐ後、声を落としつぶやくように吐いたセルの台詞にふと足を止めていた。 「自分自身のために生きることを考えたらどうだ」 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |