Story:14 喧騒を離れて-1-



揺れ続ける光は一層色濃く燃え上がる。

炎に包まれたわたし…
一体何を待ち続けているの……?

そのわたしへと伸びるこの手…

この手は…誰…?


まさか…



セル…



あなたなの……?





…○○○




「○○○」


「いつまで寝ている、夜はとっくに明けたぞ」

その低い声に目が覚め、窓に目を向ける。随分と陽が明るい。
どうやら相当長い時間眠っていたらしい。

眠気も冷めぬうつろな目で体を起こし、声のほうを振り向く。

すると腕を組みながら、呆れた顔で部屋の扉際にもたれるセルの姿が。

「あなた勝手に入って…」

「退屈しのぎに私の相手にでもなれ」

「退屈しのぎ…ってまさかあなたの言うウォーミングアップのこと?」

「そうだ、表へ出ろ」

彼のペースに逆らえずにいる自分に、また気持ちが苛立ってくる。

「何だ、まだ怒ってるのか?」

機嫌の悪そうなわたしを見るなり、セルはため息まじりに言った。

「そうじゃないわ、そうじゃないけど…あんな言われ方をされては、誰だって距離を置くものだわ」

わたしはあのやりとり以降、無意識にも彼に疑心暗鬼になっていた。


「…どうやら私の思い違いのようだな」

「え…?」

「お前はドクターゲロに頼り過ぎた。それ故にそれ以外の者を当てにする方法を知らないようだな。ドクターゲロがいないとなれば、他に誰がいるか考えたことはないのか」

「それ以外って…まさかあなたのことを言ってるの?」

また昨日を繰り返すつもりなのだろうか。今はもう聞きたくない、昨日はどんなにショックだったか…

「お前は独りでもどうにか出来る思っているようだが、そうは思えんがな…狷介孤高(けんかいここう)など今のお前には無理な話だ。私を信用しておいた方が身のためだと思うが?」

「あなたの言動にはいちいち癪(しゃく)に障るわ…」

「ふっ、それは結構だ。お前自身心当たりがあると分かっているからだろう」

何を言っても無性に悔しくて仕方がない。セルはまるでわたしの何もかもを知っているかのように冷たくあしらう。最低だわ…


「ところで、改めてお前に聞く。私をこの先も見届けるかどうかだ」

昨日珍しくセルから出た、依頼もしくは要求とも取れる言葉。もちろん忘れてはいない。
なぜそんな事を言い出したのか。ドクターのことを考えれば、それは当然のこととは思っていたが…

「もちろん…見届けるつもりよ。それは変わらないわ」

「その言葉、お前自身で決めたことだと受け取るぞ」

「…もちろんよ」

小声でわたしは答えた。

「こういうことを言う柄ではないが…これは約束だ。分かったな」

その意味深な低い語り口に、セルは今何かを頭に巡らせながら話している…そう受け取れた。でもわたしは素直にそれが聞けなかった。

「何よ急に…命令みたいね、それ」

「お前の考え過ぎだ」

わたしは、ここは引けないとばかりにセルへ問う。

「ではセル、わたしからも聞きたいことがあるの」

「ん?」

「どうしてわたしを殺さなかったの。どう考えても…用済みなのはドクターでなく、あなたに対して言ってるとしか思えないわ」

セルは途端に笑い出す。

「そんなことを聞いてどうする。殺されずに済んだんだ、それだけでもよかったじゃないか」

「それで納得できるものでもないでしょう」

そんな彼に苛立ちながらわたしは言った。だが、セルは相変わらずだ。

「そんなものは分からん」

あっさりとセルは答える。

「ドクターゲロが私にそう仕込んだんじゃないのか?」

「な、何よそれ…冗談でしょう?」

「そうだな」

またはぐらかすようなことを…

「あなたって…わからない人だわ。隙が無いというか…」

「ん…?」

「確かにあなたはあらゆる面で優れているし、わたしでも既にあなたには到底及ばないのは分かっているけど…それとは違う話よ」

「…何の話だ」


これまでのセルの言葉を思い出す。彼は一体何を思ってわたしに言っているのか…話の端々に距離を感じずにいられなかった。

「あの時のあなたは…幻だったの…?」


思わずわたしは心の言葉が出た。

「何?」

セルの顔に先程のからかうような表情は無い。

「わたし…あなたのこと本当に信用していいのかしら…狷介孤高だなんて、むしろあなたのことなんじゃないの…?」

セルは何も言わずわたしをじっと見つめていた。

セルはまるで故意に自身の意見をわたしへ強くぶつけてくる。それがどうしても…理解できない。たとえわたしが彼を信用するしかないのだとしても。

本当は何を言いたいのだろうか…昨日最後にセルが口にした言葉が気になった。が、今この状況で彼に聞くこと自体が悔しかった。




わたしはベッドから離れ、部屋の扉際にいるセルとすれ違いながら、外へと向かう。

「どこへ行く」

「街へ出るのよ、服を探しに行くだけ」

振り向きもせずわたしは答えた。結局またセルから離れることを選んでしまった…


セルの視線を背中に感じつつ、わたしはその場を立ち去ったのだった。

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