刻々と過ぎていく時とは裏腹に、この数日はわたしにとって何故かずっとひとつの「場所」に留まり続けていたかのような、そんな錯覚があった。その最中、次々と変化を遂げていくわたしの心の内には、次第にたくさんの感情が折り重なり…今までにない「何か」が芽生えている、そんな気がしていた。 それは…歯痒いような、もどかしいような、今までにはない感覚だ。わたしはまだその「何か」を素直に受け入れることはできなかった。その先を考えること、そのものへの罪悪感にも似た感情がわたしの中にはあった。 それでもその「何か」は、知らず知らずの内にわたしを次の新たに待ち構える運命へと押し進めていくのだろうか。この次元に来て以来、時と共に流れついたわたしの心身に起こる様々な出来事に、未だに気分は複雑に入り混じっている。 あの日からまた数日が経っていた。 すれ違いでギクシャクしていた日々はようやく過ぎ去り、彼はいつもと変わらぬ様子だ。 わたしはと言えば… 心身共にすっかり落ち着かせてしまったような、そんな彼の心境が気になっていた。 彼と向き合う度、また何かが変わってしまったのではないかという不安が片隅にはあった。あれからはそれ程話もしていない。 あの夜は今まで彼と過ごした中で「特別」だったのかもしれない。彼にもわたしの気持ちは伝わったのだと思う。それでも…彼に対する複雑な気持ちばかりが募る。 彼は何を思っているのか。 お互いの距離が縮まったのだと思えたそのすぐ後だからか、尚更気になってしまう。 彼にはセルゲームというものが控えている。この世で一番強いと聞くあの孫悟空との決戦が近いのだ。このようなことに悩むわたしは… 「何を考えてるんだろう…」 自分をさておき、相手のことを汲み取りたい一心になる。決して悪いことではないと思うが、逆にそれは気付かぬ内にわたし自身の心を擦り減らすことになっていた。 自分自身の為に生きること。 心まで擦り減らしては、わたし自身の為にもならないのだから… でも心底そう思えるには、まだ少し時間がかかりそうだ。相手に寄りかかるからこそ生まれるこの感情…結局わたしの悩みはまだ大して変わらない。 陽が傾く頃、わたしはリングのある場所へと足を向けた。 「…セル?」 珍しく彼の姿が見当たらない。どこかへ出かけたのだろうか。 気配を探ってみると、どうやら海のある方向にいるようだ。気まぐれな彼…さほど晴れない心持ちのまま、わたしはその場所へと向かった。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |