日が落ち始めた海辺のそばに、高くそびえる丘が見える。目の前に広がる海は静かに波を揺らし、その揺れと共に赤い輝きが幾度となく現れ綺麗だ。 丘の先に彼の姿はあった。 独り立ち尽くすその様子に、それ以上そばへ寄ることがどうしてもできない。 こうやって独り静かにたたずんでいる彼を見ていると、自ら孤独を選んでいるようにも思える。いや…彼は元々ずっと独りだったのだ。そこに突然わたしが現れただけ。 彼はあの場所で何を思案しているのだろうか。小風が吹く中、少し寂しさに駆られる。 完璧な頭脳と最強の力… それは確かに彼にとって不可欠なもの。そしてそれを手に入れた今の彼は…それで満たされたのだろうか。どこか寂しくも見えるのは気のせい…? 気づけば彼に、精神的にも距離を縮めたいと願うわたしがいた。わたしに出来ることなんて他に何があるのだろうか。彼との「約束」はもちろんまだ覚えている。でもそれだけで… 本当にいいの…? 何かが足りないなどと…そう考えるのはおかしいだろうか。 しばらくわたしは彼の姿を見つめていたが、そのまま引き返すことしかできず、彼に背を向け歩み出した。 彼は… 気付いていた。 離れて行くわたしを見るなり、彼は呼び止めるように話しかけた。 「私は…どこに向かえばいい?何を見据えるべきだと思う?」 セルが口にした言葉に思わずわたしは立ち止まる。 セル…? 振り返ると、彼の視線はあくまで海の向こうだ。 「正直くだらないとは思っていた。人間は何かと答えを欲しがる生き物だ。存在意義など孤独におののいた挙句、見えないものにすがる愚かな者が考えることだろうとな」 静かでありながらも、内からの強い感情にあふれた低い口調で、セルは話を続ける。 「ドクターゲロは孫悟空を倒すために私を作ったとは言え、もちろんそれは私にとっても悪くはない話だ。この完全体の力を試せるのだからな。だが…それはあくまでドクターゲロ自身の意志によるものだろう。私にとっての最終目的ではない。もっと…別の何か求めるべきものがあるはずだ」 彼の話に、わたしはしばらく言葉を発さず静かに聴き続けた。 「今になってなぜか考えずにはいられんのだ。お前と出逢ってからというもの…」 一瞬間が空いたかと思うとこちらへ振り向き、 「どうもお前を見ていると…感傷的な気分に駆られるな」 セルはまるで冗談を言うように微笑するが、わたしにはその表情に見え隠れする彼の心の内が気になった。 「…どうした。私を探していたんだろう?」 どこかからかうような表情で話す彼に、わたしは素直に応じられなかった。 「わたし、あまりに不安定なことばかりしてあなたを混乱させてしまったんじゃ…」 「混乱…?」 こちらを見つめる視線にこれ以上目が合わせられず、わたしは少しばかりうつむいた。 「あなたはわたしと会うまでは、ずっとあなた自身の考えでもって行動してきたのに、それを乱したんじゃないかって…」 セルはまた何かを思ったのか一瞬沈黙するが、 「…そうだな、お前は私を振り回しているようだ」 再び微笑しつつ彼は答えた。 「セル…?冗談なの?」 「そう思うか?」 「わかっているでしょう、わたしはいつも真剣に話してるのよ」 そうやってはぐらかすのはいつものこと。そんな態度の時は…また何を思って話しているのか… 「そうだな…忘れていた。お前はいつでもひた向きに物事を考えるタイプだった」 皮肉なのか真面目に言っているのか…時折分からなくなる彼がもどかしい。 「お前は何も悪くはない。ただ私が勝手にそう捉えているだけのことだ」 「それは、やっぱりわたしのせいで…」 「混乱など…そんなモノではない」 少しばかり口調が変わったようにも思えた。 どういうこと…? そう尋ねようとしたが、あの夜にセルが口にした言葉がよぎった。 『どうしてお前はこんなにも私を惑わせるんだ』 その先は…また考えてはならないような、そんな気持ちが湧き起こる。 セルはわたしの様子に何かを察したようだった。 「…○○○」 鼓動が早まるのがわかった。なぜなら…夕陽を背にセルはわたしをすぐ側から真っ直ぐと見つめている。あの夜の出来事が脳裏に浮かんだ。 「何を…考えている?」 静かに話す彼の声に、何故か気恥ずかしさが増す。 「あなたの言葉を思い出して…」 「私の言葉?」 「わたしの人生をわたし自身の為に生きたらって。それに、この先のあなたを見届けることも…」 「ふ…覚えていたのか」 セルは海へと目をやった。 「確かに私の行く末をとは言ったが…それはお前次第だ。お前にその気が無ければ、意味がない…」 一息置いて彼は言う。 「お前が決めればいい」 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |