以前のわたしなら、きっとドクターを思い、セルを見届けることも使命であるとそう考えたかもしれない。 でも今は…違う。わたしにとってそれは必要だから、こんなわたしでも彼の力になりたい、そう思えたから… 「約束したじゃない…」 セルは何も言わずにこちらへと目線を戻した。 「それだけでもいいの、あなたとの間には何かが必要だって、そう思ってたから…」 しばらく海からの風音だけが流れた。 「そうか…」 セルは小さくつぶやくように答え、 「お前からそういう言葉を聞けるのが、今は一番嬉しいかもしれん」 彼の声は穏やかだった。 「少し前のお前は、私に隙を見せまいと頑なに構えていたが…変わったな」 「それは、あなただってそうじゃない」 初めて出逢ってから、今こうして目の前にいるセルは…何かが変わった。彼のそばにいるからこそ、それがわたしにも分かった。 こんな穏やかな様子を見せるセルを知ってるのは、きっとわたしだけ…そう思うと不思議な気分だ。 「ふふ、そうだな…お互い様だった。だが、お前という人間をようやく理解できてきた気はする」 やっとお互い向き合うことができた。でもそれはまだ始まったばかりだ。 「今まであなたと話した事なんて、まるで喧嘩みたいなものでしかなかったわね」 ほんの数日前の出来事がどこか昔話のように思えた。そんなわたしにもようやくまた心穏やかになれる時が訪れたのだ。それを実感している今、わたし自身の表情も緩やかになっているのを感じた。 「はは、心配するな。まだこれからだろう?」 わたしの柔らかな面持ちを見て、セルはゆっくりと話を続ける。 「お前自身が口で多くを語らずとも、そういう顔が見れれば何も気にはしない」 「…だが、それでも口から確かめたくなる時もあるがな」 セル…? 「ふ…、どう言うべきだろうな」 その何か言いたげな素振りが、わたしを時に動揺させる。その続きを聴きたい。でもわたしこそ、そう伝えたいはずなのに素直に言葉にならない。 「セル、わたし…まだまだあなたと話たいことが…」 そう言いかけた時、セルはいつの間にかわたしのほんの目の前だった。 「そんなに話したいことがあるのなら…いいだろう、何時間でもゆっくり聞いてやる。セルゲームが終わった後にな」 彼の低い声が静かに響く。わたしは…またどうしようもなく面はゆい気持ちが、全身を駆け巡っていた。 「ゲームが終われば、本当の…二人だけの時間が来る」 わたしの瞳を見つめながらそう言い終わると、セルはそれとなくわたしの手に触れた。 「楽しみにしているぞ」 「何だか、ロマンチックなこと言うのね…」 そう言うのがやっとだった。 「ん?」 「まるで、あなたがあなたじゃないみたいに…」 すると、わたしの言葉を思い出したのか、セルはふと何かを思案するようにわたしに話を向けた。 「その言葉…久しぶりに聞いたな。その意味を聞きそびれていた」 「意味だなんて…」 わたしの戸惑う様子にセルはずっと真っ直ぐな視線で見つめる。思わずわたしはうつむいた。鼓動がますます速くなる。わたしにはどうしても彼の顔を見ることが出来なかった。 「聞きたいのはわたしの方だわ…」 「○○○…?」 「時々、思いがけないところで、思いも寄らないあなたが現れるから…戸惑うの」 セルが触れているわたしの手はきっと指先まで熱くなっているだろう。彼に何か悟られてしまいそうで、思わず手を離してしまった。 「○○○、それは…」 そう言いかけたセルだったが、ふと言葉を止めた。 「いや、今はよそう」 顔を赤く染め挙動不審になったわたしを見て、セルは何を思ったのだろうか。 「時折、思いも寄らないお前が現れるんでな。説明がつかない気分になる」 思わず彼を見上げた。 「黄昏れ時は何かと感傷にほだされるな」 「目の前にいれば…尚更だ」 するとセルは、 そっとわたしの頬に触れ… 小さくつぶやいた。 「お前は…なぜ私の前に現れたんだ…?」 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |