Story:19 夜明けの追憶-1-



夜が明けようとしている。
タイムマシンに乗り込み、瞬く間にこの地へ降り立ったあの日…思えばもうどのくらい経っただろうか。この次元はセルゲームという日を迎えていた。

わたしは丘の上からその夜明けを見つめている。今日という日が始まる…そんな音がこの世界から聞こえてくるようだ。髪をなでるように吹く風は清々しい。
夢の中で時間をも止まっていたかのような数日間を経て、わたしの中の現実が再び扉を開ける。後戻りはもちろん出来ない。
今この場所から一歩、わたしは足を踏み出す。これから待ち受ける、起こるであろう新たな何かに向き合うように。そして…以前のわたし自身から旅立つように。


ふと、古い記憶をたどっていた。
ドクターと出会った頃のことだ。

思い出せるのは…
闇から引き戻され次第に開かれていくその目に、一筋の光が差し込んだあの時。
差し込むその光は紅く大きく揺れ動き…我に返るとわたしは既に燃え盛る炎の中だった。

身体中が打ち付けられたように激しく痛んだ。何が起こったのかもわからず、不安に襲われながらもひたすら助けを呼んだ。
そんな時だ。目の前の炎の壁から現れたのが…

ドクターだった。

「お前は独りなのか。ならばわたしが助けてやろう」

わたしへと伸ばされた手に、無意識に握り返した。彼の手はどこか冷たかった。

ドクターは怪我を負ったわたしをその場から救い出してくれた。ようやく安堵に包まれた瞬間だった。微かな記憶だが、その時のドクターとわたしの周りには焼け野原が広がるだけだった。何があったのか、そしてドクターは何故そこに現れたのか…わたしにはわからない。


ドクターはわたしをある場所へと連れて行った。静かな場所だった。薄暗い明かりに心が安らいだことを今でも覚えている。あの赤々と燃え盛る炎の中が余程不安だったのだろう。

ドクターはわたしのそばに腰掛けると、ふとこんな話を持ちかけた。

「この時代は、もう今までの常識は通用しない。より高い頭脳そして力を持つ者こそ生き残れる時代だ。残念ながら今のお前にはその二つが欠けておるのだ、わかるか?これからを生きるには、まずお前の場合強い体が必要だろう。強くなれば、怖い思いもせずこのような怪我も今日限りで済む。わたしが手助けをしてやろう。どうだ、強くなりたいか?」

よくはわからなかったが、ドクターのその言葉に、直感的に何かが心の中に芽生えた。今思えば…使命感のようなものだろうか。

ドクターはわたしに、独り研究を続けていることを話した。そしてその手助けをして欲しいと。

それ程迷いはなかった。自分が必要とされているのなら…そう思えた。
あの炎の海から目覚め、自分自身が何者なのかさえ、わたしはもう分からなかったのだ。頼れるのは目の前にいるこの不思議な老人だけだった。

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