Story:19 夜明けの追憶-2-



わたしはドクターに導かれるままに、当初研究段階であったある「テスト」 を受けた。
それが…後のセルを創り出す元となる、バイオ技術によるものだと知ったのは、もっと後のことだ。
その「テスト」によって、わたしの運命は大きく変わったのかもしれない。もちろん成功には間違いなかった。今こうしていられるのも、ドクターの技術のおかげなのだから。

それからは、長年にわたりドクターと共に過ごし、あらゆる知識と技術を教わった。いつもは厳しい彼だったが、今思えば時折見せる優しさが嬉しくて、ずっとドクターから離れずにいたのかもしれない。
数えきれないぐらい叱られたくさん泣いたし、その一方で褒められる度に何度も喜んだ。それが当たり前の日々だった。
彼こそが…唯一の家族、わたしにとっての父だった。

『お前はいい娘だった』

その父はもういない。
わたしが知っている、そして信じられるのはあの言葉だけ。彼は確かに優しかった。死を悟りつつもなお再会を望んだのだから。

「…でも…どうしてなの…」

ドクターは何故わたしを拾ったのか。何故技術まで教え込んだのか。本当のわたしは何者なのか。ずっと心の片隅にあったこの拭えきれない思いを…ドクターに伝えることはなかった。触れてはいけないような、そんな気持ちがあった。

最期にひとつ言葉を遺し眠りについたドクター自身が、何を物語っていたのか…あの時わたしに遺したものとは本当は何だったのか。未だにそれは扉の奥に閉ざされたままだ。
それを知る術など…もうなくなってしまった。


風は緩やかに夜明けの香りを漂わせる。
その風は、記憶の底から何かを思い起こさせるようにわたしを包みこむ。
そして視線の先には、まぶしい陽の光が見え始めた。

その光は…
まるで…あの夢…

そう、あの夢だ。

わたしの脳裏にふっとよぎったものがあった。

何度も夢見たあの光景。
そこに映し出されていたのは、炎に包まれたわたし…
あれは後にドクターと出会う事となる、当時のわたしだ。

でも、そのわたしを助けたのは、ドクターではく…セルだった。
夢に現れたのはわたしとセル、二人だけだった。どこか今までの別れと出会いを思わせる、そんな夢…
そして暖かく大きなに安堵感に包まれ、静かに消えていったあの夢…

わたしは次第に思い出し始めていた。

昨夜のあの夢さえも。
あの夢は…

何故だろう…
誰もいなかった。

何も見えなかった。


わたしは…

独りだった…?



突然、わたしの胸が大きく打ちつけられた。



「ドクター… 」


「わたしはどうなるの…?」

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