わたしはドクターに導かれるままに、当初研究段階であったある「テスト」 を受けた。 それが…後のセルを創り出す元となる、バイオ技術によるものだと知ったのは、もっと後のことだ。 その「テスト」によって、わたしの運命は大きく変わったのかもしれない。もちろん成功には間違いなかった。今こうしていられるのも、ドクターの技術のおかげなのだから。 それからは、長年にわたりドクターと共に過ごし、あらゆる知識と技術を教わった。いつもは厳しい彼だったが、今思えば時折見せる優しさが嬉しくて、ずっとドクターから離れずにいたのかもしれない。 数えきれないぐらい叱られたくさん泣いたし、その一方で褒められる度に何度も喜んだ。それが当たり前の日々だった。 彼こそが…唯一の家族、わたしにとっての父だった。 『お前はいい娘だった』 その父はもういない。 わたしが知っている、そして信じられるのはあの言葉だけ。彼は確かに優しかった。死を悟りつつもなお再会を望んだのだから。 「…でも…どうしてなの…」 ドクターは何故わたしを拾ったのか。何故技術まで教え込んだのか。本当のわたしは何者なのか。ずっと心の片隅にあったこの拭えきれない思いを…ドクターに伝えることはなかった。触れてはいけないような、そんな気持ちがあった。 最期にひとつ言葉を遺し眠りについたドクター自身が、何を物語っていたのか…あの時わたしに遺したものとは本当は何だったのか。未だにそれは扉の奥に閉ざされたままだ。 それを知る術など…もうなくなってしまった。 風は緩やかに夜明けの香りを漂わせる。 その風は、記憶の底から何かを思い起こさせるようにわたしを包みこむ。 そして視線の先には、まぶしい陽の光が見え始めた。 その光は… まるで…あの夢… そう、あの夢だ。 わたしの脳裏にふっとよぎったものがあった。 何度も夢見たあの光景。 そこに映し出されていたのは、炎に包まれたわたし… あれは後にドクターと出会う事となる、当時のわたしだ。 でも、そのわたしを助けたのは、ドクターではく…セルだった。 夢に現れたのはわたしとセル、二人だけだった。どこか今までの別れと出会いを思わせる、そんな夢… そして暖かく大きなに安堵感に包まれ、静かに消えていったあの夢… わたしは次第に思い出し始めていた。 昨夜のあの夢さえも。 あの夢は… 何故だろう… 誰もいなかった。 何も見えなかった。 わたしは… 独りだった…? 突然、わたしの胸が大きく打ちつけられた。 「ドクター… 」 「わたしはどうなるの…?」 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |