刻々と迫るその時間。彼が宣言した「セルゲーム」はもう間近だ。 人気の無いこの開けた土地に居ては、人間たちが騒ぎ逃げ惑う街の様子など考えもしない。この日もいつもと変わらない静けさと穏やかな空気が流れている。 リングの中央に立ち尽くすセルは、きっと今か今かと、迫り来るその時間を待ち続けているのだろう。 「こうやって待つ時間が一番長く感じるわね」 リングの傍からわたしはセルに声をかけた。 「ふっ、悪くはないがな」 「やっぱりあなたにとって孫悟空と戦うことは、必然なのね」 「ん…?」 呟くように口から出たわたしの言葉に、セルは反応した。 「強い者を求めてるあなたなら、きっとどうなっていたとしても、この状況に辿り着いてたんじゃないかって」 セルはわたしを見つめつつ、ひとつ間を空け話し出した。 「本来の目的である孫悟空を倒すことなど、今の私にはたいして意味もないと思っていたが…もしかすると孫悟空を倒せば得られる『何か』があるのかもしれない。そう思えたのだ」 視線は遥か遠くに、力強い口調で彼は続けた。 「そいつが何か知りたくなった。ドクターゲロの仕業かはわからんが、やつはこの私に、私が知らない『何か』を仕込んでいるのやもしれん。考えてみると、なかなか愉快な話だと思わないか?それはパワーなのか新たな能力なのか、それとも全く別の…私にとって未知の『何か』があるかもしれないのだ。そして、そいつが何なのか探し出す。このセルゲームでこそ発揮されるかもしれないし、それこそゲームが終わった後の更に経験を経たわたしにしか分からないものかもしれない…面白いだろう?」 まるで純粋にこの状況を楽しむ、彼の姿があった。わたしにはそんな彼の様子が不思議に見えた。この今の状況は、何を意味しているのか…もちろんセルゲームを目の前に控えてか、彼は今まで以上に自信に満ち溢れた表情だ。が、その楽観さとは裏腹にわたしの心の中はどこか気もそぞろだ。 「どうした、○○○」 「胸騒ぎというか、何だか落ち着かなくて」 「何だ、お前が気を張ってどうする。気にかかる事でもあるのか?」 セルはわたしの表情を見るなり、 「慎重になり過ぎては、面白いはずのモノも心底楽しめないぞ。ようやく私の本当の力を目の当たりに出来るんだ。よく見ておくんだな」 セルの言う通り、わたしはこの時を迎えるためここまで来たのだ。それに…わたしはセルの持つ最強の力を信じている。 「そうね、やっとこの日が来たんだもの…」 そう答えたわたしを見て、セルはわたしのそばへと歩み寄った。 リング上からわたしを見下ろす彼の顔が少し和らいだように見えたかと思うと、わたしの目の前で片ひざを下ろした。 「○○○」 声はさほど大きくない。何?とわたしは耳を傾ける。 「セルゲームが終わったら…」 セルはそう言葉を続けたが、ふっとわたしの耳元に寄り添い囁いた。 思わず… 胸を押さえた。 何度も戸惑いながらも抑えていたものが、それこそ今呼び起こされそうで… 「セ、セル…」 「…必ずだぞ」 「約束が増えたな」 またいつも通りの不敵な笑みに、思わずわたしは視線を落としてしまう。「約束」などと言われつつも彼の言葉の意味を考えると、どうにも気恥ずかしくなった。 そうやって、わたしの反応を楽しんでいるような素振りを見せたセルは、相変わらずの余裕の物腰で再びリング中央へと戻った。 「いよいよか…早く来い孫悟空…」 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |