いよいよ正午に近づいた頃。 わたしはリング近くの小岩に腰掛け、孫悟空たちの到着を待っていた。 すると遠く先から現れた1台の車がリング付近へ止まり、中から見慣れない男が現れた。意外ね…わたしの他にも観客がいるなんて。 ちょうど先ほどから小高い岩の上に2人ほど別の者がいるが、彼らの様子にようやく納得した。随分と物好きなTV局の人間だ。威勢の良い態度を見る限りどうもセルと戦う気らしい。呆れ気味にわたしは彼らに忠告した。 「あなたたち、離れて観てた方が身のためよ」 そんなわたしの話を受け入れることもなく彼らは、好き好きに報道を続けていた。 すると、いつのまにかこちらへと向かう気を感じた。まずリングのそばに降り立ったのは、ベジータだ。外見では特に変わりはないが…彼の事だ。きっと以前よりもまた戦闘レベルを上げているのだろう。 そのあと間も無く、もう一人の影に気づいた。ちょうどわたしの近くへと降り立ったその人物には少々意外だった。 「あなたは…」 降り立ったその人物は、あの時17号たちと共にいた人造人間だった。彼は一瞬こちらに目を向けたが、動じず口は開かない。 「ほう…16号か。まだ存在していたとは。しかも故障が治っているじゃないか」 同じくセルも少し驚いているようだったが、わたしは数日前の、この人造人間たちとの対峙を思い出していた。途中気を失っていたわたしには記憶にいくつか空白もある。わたしの知らぬ間に、それぞれ事が起こっていたのだろう。 「あなたまで来るなんて驚いたわ。まさか孫悟空たちと仲間にでもなったの?」 思わずわたしはその人造人間に問いかけた。 「…違う」 そう答えた彼の視線の先はリング上のままだ。 「今は目的が同じというだけだ」 目的…どうやらあの時と立場はそう変わっていないようだ。 「そう…でもどうかしら。これはセルや孫悟空、彼らの戦いよ。わたしも闘わない。見届けることぐらいしかきっと出来ないわ」 「…」 彼はそれ以上は答えない。 「聞きたいのだけど…あなたは未来から来たの?16号と言っていたわね。17号たち以前のナンバリングには正直興味なんてなかったし、ドクターからも特別聞いたことはなかったけど…あなた、他の人造人間とは何か違う」 「…ここでそういう質問をするとはな」 わたしの質問が唐突だったのか、口角を上げ16号は口を開いた。 「オレはお前たちとは違って無から造られた。それだけだ」 「17号たちの話では、ドクターゲロはオレを失敗した試作品だと言っていたらしいが…オレには関係ない。いずれにせよ孫悟空を殺す為に造られた事には変わりはない」 16号は淡々と話すが、その口調の中にどこか思慮深いものがあった。相手として、そこはやはり気になる。 「今の状況から考えると、あなたの立場って随分とおかしなモノね」 「さてな…お前自身こそ考えるべきだろう」 どういう事?そう尋ねようとした矢先、後から辿り着いた他の者たちが次々と降り立った。 「おそろいでようこそ」 緊張の面持ちで立ち尽くすその者たちに、セルは声をかける。 どうやら全員がリング前へ出揃ったようだ。 「…時間だ。どいつからでもいい、さっさと出ろ」 そして、セルゲームが開幕した__ ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |