Story:21 リングの片隅で-1-



いよいよセルゲームの幕は開け、早速セルは初戦の相手の登場をうながす。

「どいつからでもいい。さっさと前に出ろ」

「よし…オラが行く」

我れ先と名乗りを挙げたのは…まさかの、あの孫悟空だ。

「いいだろ?ベジータ」

「ふん、好きにしろ…フィニッシュはオレが決めるからな」

そんなふたりのやりとりをよそに、周りにいる彼らの仲間たちは驚き、どこか困惑気味のようだ。

「ご、悟空さん、いきなり行くんですか…!?」

「ああ!」

戸惑うトランクスにも気に留めず、孫悟空は答える。

初戦に孫悟空というのは、わたしもさすがに予想はしていなかったが…あの者からは随分と余裕を感じる。
あれが…ドクターそしてセルが目的としていた本当の強さを持つと言われる「孫悟空」なのね。


途中、相変わらず周りでうろついていたTV局の者と威勢の良い人間が割り込んではきたものの…すみやかにゲーム開始へとことは流れたようだ。


「いきなり孫悟空、きさまからか…一番の楽しみは最後に取っておきたかったんだがな…まあいい」

動じることなくセルはつぶやいた。やはりそれでも、この戦いを心底楽しみにしていたのだろう。セルの表情からは、そんな様子がうかがえる。

リングの上にふたりがそろい、身を構える。余裕を漂わせると同時に張り詰めた空気さえも感じる。


…いよいよだ。

ゲームの舞台となるこのリングの片隅で、わたしはふたりの戦いを見守るしかない。

セルからこのゲームについて告げられたあの日、わたしにはそれがどのようなものなのか、いまひとつ想像はつかなかったが…
今日という日までセルはこの瞬間を待ち望み、そしてどんなことを考えていただろう。このゲームは彼にとってきっと大きなモノになるに違いない。
彼はただ楽しむためとも言わんばかりの口振りではあったけども…それだけだなんてわたしは思えなくて…


昨日までの日々は、わたしにとってはさまざまな感情が渦巻いた、今までにない時を過ごした感覚だった。そののちに控えたこのゲームに、また何かが起こるのではと考えずにはいられなかった。
とはいえ、目の前の状況からすれば、そんなわたしの心境などちっぽけなものなのかもしれない。

リングに立つセルは…とても大きく見えた。

これから始まるであろう凄まじい戦いを目前にした彼の…その身に備わった威厳と風格に、わたしはいつのまにか圧倒されていた。
今までの彼とはまるで違う、とても大きなものだった。わたしにはそう見えたのだ。もうとっくに手は届かないような…

一方で、いざこの時を迎え次第に高鳴る鼓動が、知らず知らずのうちにわたし自身までも戦闘へと引き込まれていく感覚だ。
戦うのは決してわたし自身ではないというのに…平静を保ったつもりではいるが、こんなにも気を張りつめているなんて。そして孫悟空…いったいどんな力を秘めているのか。


ふと空気が揺らいだ、その瞬間だ。


閃光のごとくぶつかり合う大きなふたつの気。二つ三つと打ち合ったと思えば、再び二人はリングの上に静かに立ち止まった。

「準備運動はこのくらいでいいだろう」

そう言いつつセルは、手応えのある相手を前に気分を高めているようだ。手始めにも関わらず、既に観る者を圧倒させてしまう。彼らのゲームはまだ始まったばかり…

これからが本当の戦いだ。

先ほどとは打って変わり、孫悟空は大きく構えパワーを最大限に解放した。

「何という気なの…!」

それを見たセルも、同じく凄まじい程のパワーを持った気を悠然とまとい構えた。これ程までに大きな力を備えたもの同士が、ますますもってぶつかりあうことになるのだ。一体どのように勝負がつくのか…わたしには到底予想もつかないほどだ。気づくとわたしはかすかに身震いし始めていた。

「こいよ…孫悟空」

「ああ…!」


お互いをほんの目前にしばらく睨み合ったふたりだったが、先に動いたのは孫悟空だ。はるかに上昇させた大きな気と共に数発繰り出したかと思えば、セルは勢いよくリング上にたたきこまれ、空中でその体を制止させた。

「これだ…!」

その顔は今までになく高揚した表情だった。セルにとって、ようやく求めていたモノが得られたその喜びと闘いへの期待が更に大きく膨らんだかのような様子だ。

「戦いはこうやって、ある程度実力が近くなくてはおもしろくない」

「ああ、オラもそう思う」

引き続き凄まじい勢いで続く二人の攻防に、目で追うのもやっとだ。


「わたしもスピードには自信があるんだ…!」


セルの闘いには、全てに余裕があふれている。

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