セルから放たれた気功波により、瞬く間にリングもろとも大地は砕かれた。それは、本当の戦いが始まるまさに号砲だった。 ゆっくりと地上へ降り立ったふたりの強者は、次の戦闘へのつかの間の幕あいに言葉を交わす。 「これで勝敗は、降参するか死ぬかだけで決まる…ますます面白い戦いになるぞ、孫悟空。この戦いに、あんなちっぽけなリングはもはや私たちには何の意味もない」 「なるほど…とことんやりたいってわけだな…」 「先にこれだけは言っておく。わたしは地球を破壊することなど何とも思っていない…ただ楽しみが減ってしまう、それだけだ」 「……」 セルはあくまで泰然たる構えでいる。孫悟空はその彼の様子に、すでにこのあとの戦いを見据えているようだ。 わたしや孫悟空の仲間たちは、このしばしの間に起こったふたりの攻防にさえ驚きを隠せずにいたが、もはやこのあとの展開など誰にも予想できない領域に入っていた。 「やっぱり悟空さんはすごい…そしてセルも…」 「ああ…なんて気のでかさと素早さだ、ふたりとも…」 トランクスたちが息をのむようにつぶやく。 この戦い…セルと互角に渡り合えるなんて、孫悟空くらいしか思いつかない。おそらく皆そう思っているだろう。確かにそうかもしれない。でも、わたしにとってはまだ得体の知れない孫悟空という人物ではあるものの、ここまでの戦いを通してみても、セルからは一貫して余裕が感じられる。わたしの目にはいつでもそんな彼が映っていた。 これが完全体であるセルの強さなのだ。 「セルなら……孫悟空に勝てるかもしれない……!」 思わずわたしはそう口にした。 すると… 「…お前も孫悟空を殺す目的があったのか」 わたしの背後から聞こえてくる静かな声。 16号だ。 「おまえ自身がその目的を果たすのは無理だとしても、セルを完全体にさせ孫悟空と戦わせることで、ヤツにそれを担わせているのか」 まるで彼らしいとも言える、感情など抜きに真っ直ぐに向けられた言葉が、先ほどまで気を張っていたわたしの心持を妨げてしまう。わたしはそれを振り切るように16号に視線を返した。 「オレは孫悟空を殺すために造られたが…お前とはやはり考えが違うようだ。セルは止めるべき存在であることには変わらない」 その全てがリングとなった大地の上で、ふたたび構えながらもお互いに向い立つセルと孫悟空の様子を見つめながら、16号は淡々と話しだす。 わたしは、以前対峙し疑問を投げかけてきた時の彼を思い出した。 彼はまた何を考えわたしに話すのか… 「あなたはお互いドクターから造られた者として、わたしに何か言いたいことがあるようだけど…考えが違うとて、それは結構なことね。ただセルが孫悟空と戦うのは、彼自身が望んでいたことよ。わたしからそれをセルに言及することもないし、もとよりわたしは孫悟空になんて大して興味はないのだから」 「ならばお前は何をもって行動をしているのだ。ドクターゲロの命令なのであれば理解はできなくもない……が、そんな単純なものとは思えない。何故ならセルという存在はすでに博士の意思をも…それを超越している」 思慮深い16号から発する言葉に、わたしはそのまま聞き流すことはできなかった。 「…何が言いたいの?なぜわたしにそんなことを聞くの?」 「その反応から察するに、お前はセルがどれほど危険な存在かを考えたことはないのか」 セルが危険な存在など…むしろわたしにとってはどこか腑に落ちない表現だ。 とはいえ話が進むにつれ、彼の言いたいことが見えてきた。16号はきっと、完全体へと変貌を遂げたセルの本当の強さを予測していたのかもしれない。その強さは、彼らから見れば末恐ろしいものに映るのは当然だろう。 でもそんなことを…わたしは考えもしなかった。 わたしが彼から感じていたのは、そんな情もなく冷たいものじゃない… 「セルとともに行動しているお前だが、お前はヤツを止めることもできたかもしれない…」 わたしが… セルを止める……? 「一体わたしに何を期待しているというの……?」 思いがけない言葉に、わたしは16号に問いただした。 「言った通りだ。お前のような者ならこの状況を理解しているはずだ。だからこそなぜヤツを止めない… と言いたいが…そこに疑いはないようだな」 「……」 この16号はわたしを、敵対する立場でありながら唯一話を理解できる者だと考えていたなんて。わたしの何を見てそんな期待をしたのかはわからないが… 「…残念だけど、わたしはわたし自身が信じるものに対してそれに徹するだけよ。他人に勝手な期待をかけるより、あなたはあなた自身でどうにかすることね」 あくまでわたしは冷静に彼を退けるつもりで言葉を返したが、どこか引っかかるようなこの感覚…以前にも似た記憶がある。トランクスと話した時だろうか。 「その信念が…お前の行動そのものであるということか…」 静かに16号はつぶやいた。 ページ: ストーリー: 小説TOPページへ サイトトップページへ |