翌朝。前夜。

私は彼.....俊典さんと二人で海を眺めていた。夕日が沈み水平線が見えなくなる。私は彼にこう言った。


ねぇ、もし、
私達が出会わなかったら、お互いどんな伴侶を見つけていたのでしょうね。


俊典さんが悲しそうに笑った。彼の大型犬の様なふさふさの髪の毛が、海風にさらさら揺れる。

「どうしても...」


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「起こしちゃったかな?」


彼が私の頭を撫でていた。ふわっと香るいい香りで目が覚めた。昨日何度も肌を重ねた目の前の彼は、とても穏やかな表情でこちらをみていた。


(変な夢。)



私は昨日の赤面必死の情事の翌朝でもある事実に対して至極冷静だった。自分の中で点が線へと繋がり理解ができた気分だった。


「腕、痛くなかったですか?」


俊典さんはずっと腕枕をしてくれていたみたいだった。以前付き合っていた彼には、痛くなるからとよく断られたものである。俊典さんはいつもの笑顔で澄ましているが本当なら痛いんじゃないだろうか。


「いいよ、したかったんだ。」


彼はベッドの下に放り投げてあるスウェットを拾い脚を通した。この人は、スマートにいつも振る舞うが、こういう所を見るとこの人も人間なんだなぁ、と感じて何故か嬉しくなった。そして起き上がった裸体に、痛々しい傷跡。私はそこにまだ、踏み入れる事ができていない。


「温かいコーヒー、いれるよ。」


私たちは、互いに今日はオフだった。しかし、オフといっても、私は残っている仕事があるので午後には出社しなくてはならない。
そう考えると、何だか朝帰りが成るべくして成った結果の様に思えて私は口をつぐんだ。


(ニット、どこいったんだろう。)


記憶をたどると、シャワーに入る前にニットを脱いで、そのまま....
遅れた頃に恥ずかしさが襲ってきた。恐らく、脱衣所にでも置いているだろう。

あたりを見回すと、俊典さんの大きなTシャツが目に入る。キングサイズだろうか、大きなベッドにいる私が手を伸ばしても届かない位置にTシャツはあった。

(ん〜〜。)


手を伸ばし、ようやく指先に彼のTシャツの袖へ届いた。


「コーヒー、って誘ってるの?なまえ。」


「へっ?」

私は頓狂な声を上げ声の主の方向を振り返った。私が神経を集中させていたのは指先で、自分の視野が許す範囲でどういう体制かを見てみると、首から背中、そしてお尻までが露になっていた。


「............。」

私は俯きながら急いでシーツを引き寄せる。俊典さんは顔を真っ赤にしながら左手で目を覆い、上を向いていた。身体を壁にもたれかけながら。彼のこんな顔は初めて見る。彼の事をどんどん紐解いている様な気がして更に嬉しくなった。


「それ着てこっちにおいで。コーヒーが冷めちゃうよ。」


俊典さんに負けないくらい顔に火照りを感じている私は彼の振り返った背中を見届けてからTシャツをかぶった。

(はぁ。落ち着く。)


彼のTシャツにパンツ1枚。何だか俊典さんのものになった気がして悪い気がしなかった。自分の鞄の中に入っているコンタクトを取り出し、瞳にいれた。視界がクリアになる。なんて広いベッドルームなのだろう。広い上に殺風景。白を基調としてとても清潔感のある部屋だ。鞄の中のスマホを開き、緊急連絡がないかだけを確認しまた画面を閉じた。私にはあまりにも大きいベッドから降り立ち、彼の待つリビングに向かった。


「いつもコーヒー入れてもらってばかりですみません。」


俊典さんはニコッと笑い、いいから座りなよ、早く飲もう。と言いながら椅子をひいた。彼も同じくマグカップでコーヒーを飲んでいた。原色ぞろいで、まるでオールマイトのコスチューム色の様なカラーリングのマグカップ。私の視線に気づいたのか、俊典さんと目が合った。


「さて、これからの話をしようか。」


口元は笑顔であるが、碧い瞳は真剣だった。俊典さんは真っ直ぐ私を見ている。この目に弱いのだ。彼の碧色の瞳から目が離せなくなる。

「まず、順序が逆になって申し訳ない。私は昨日自分を抑えられなかった。君が欲しかった。本能に忠実に従って君を抱いてしまった。私は君に話していない秘密が沢山あるのに。」


最後の一言が心なしか言葉に力が入っていなかった様に感じた。だが良かった。彼にも自覚があるのだ。ならば、いずれ話してくれるだろう。私の心の中の視界もクリアになった。


「私は後悔していません。」

(だってこんなにもあなたの事が好き)

この時心の中の一文を口に出していれば良かったのだろうか。スマホからアラーム音がわたしの出発時間を告げる。彼が私の額にキスをする。

「そろそろ時間かい?」


穏やかに微笑む俊典さんは、私を長い腕で抱きしめた。彼の匂い。それだけで気分が和らぐ。まるで20歳の頃の恋愛みたいに心が彼を常に欲していた。彼は優しく腕を解き、脱衣場に私のニットを取りに行った。その背中を見ながら、彼の入れてくれたバニラフレーバーのコーヒーをまた一口口に含んだ。

(幸せだなぁ。)



スマホからスヌーズ機能で再度アラームがなり始めた。それを止めようとスマホに目をやると、同じ局の先輩からLINEが入っている事に気がついた。


"オールマイトの写真、違う局で写真抜かれてるよ。海浜公園だってさ。負けてんな!"


嫌味の含まれた文章ではなかったはずなのに、私にはかなり効く薬となった。何をやってるんだ。プライベートに現を抜かしている場合ではない。この仕事の世界は残酷だ。ライバルとの競い合いはヒーロー業界のそれとも似ている。結果が出せなければ、世間から忘れられていき誰も気にも止めないのだ。最愛の人が入れてくれた残りのコーヒーを飲み干した。彼からニットを受け取り、ベッドルームで着替える。



「俊典さん、私、仕事行ってきます!他局にオールマイトの写真抜かれちゃって、悔しいです。でもここで俊典さんにすがるのは違うと思うんです。だから、何も言わないで下さい。」


私の中で仕事に対するやる気がメラメラと燃えていた。好きな人もできた。その人と思いも通じた。後は仕事を楽しむだけだ。あのフランス映画の男性の様に。俊典さんは少し複雑な顔をしながら、何かを言いたそうだった。無理もない、古い友人に対して私がこんなにも熱くなっているのだ。俊典さんには言いづらいが何かスクープがあれば、私は迷いなくそれを誰よりも早く世間に伝えなければいけない。




「明日のよる、また来てくれないか?話すよ。私の事。」


嬉しい。あとは私が仕事を頑張るだけ!


「勿論です。また明日。」



そう。今日は情事の翌朝。
そう。今日は決戦の前夜。