現実は残酷だ。

私は焦っていた。
なぜ彼女にもっと早く気持ちを伝えて正体を明かさなかったのか。こうなる前に。
何故って?
彼女が私から離れていく様を見たくなかったからさ。

「また、明日.........。」


私は閉じた自宅のドアに向かって小さく言った。既に彼女は出発した。明日はUSJで相澤くんと13号とヒーロー科の授業にあたる。今夜は教師として未熟な私はその準備をしなければいけなかった。


(大丈夫だ。明日には会うんだ。)



なまえが先程まで着ていた自分のTシャツを手に取った。微かに香る彼女のシャンプーの匂い。私は残りのコーヒーを飲みながら、今から履く靴下を取り出す。今日はオフだったので定期検診を入れていた。胃やら肺やらガタがきている身体を病院で定期的にみてもらう。今の私には、残された命とてやらなければならない使命があるのだ。力を譲渡した緑谷少年、そしてかけがえのないなまえという存在。私には守り育てるものが沢山ある。


(匂いかぐって変態じゃないか、私)


ブンブンと顔を横にふり、コートを羽織って家を出た。



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時計は8時。天気は曇り。俊典さんの家を早めに出て自宅へより、メイクを手早くした。私はいい匂いに包まれていた。その匂いのもとに気付き、更に私は上機嫌になる。


(身体から俊典さんの匂いがする。)


職業柄メイク落としや化粧水などのお泊まりセットは鞄に入れてあるので、昨晩はきちんとメイクを落とした。自慢じゃないがスッピンはそんなに変わらない。少し弱そうだとか、迫力がないだとかは言われるが。それでも彼の前で素を晒すのには恥ずかしかった。だがその後の彼の言葉でそんな考えは過ぎ去った。


「なんだか眠そうだね!でもちょっと期待はずれだなぁ。HAHAHA!もっと変わったらエンターテイナーだったのに。」

彼はいたずらっ子のような顔でそう言っていた。だいたいエンターテイナーってなんだ。思い出し笑いをしながら準備を進めた。

ピロン!とスマホから音がする。先輩からのLINEで現実へと引き戻された。

"今すぐ雄英正門前に集合。今日こそ見返せよ、追い込め。"


今からオールマイトを取材するために集まるそうだ。他局はもうスタンバイしてる。急がなくては。私は知らず知らずとして仕事に対してのやる気が段々とプレッシャーになっていたのに気づいていなかった。



「オールマイトにお話聞かせてください!」

私だけでなく他局も正門前でオールマイトコールをしていた。雲行きが怪しい。結果が出せていない私はかなり躍起になっていた。このスランプから早く抜け出さなくてはいけなかった。俊典さんに笑顔で会うためにも。だが、雄英高校は固く閉ざされていた。何も機密情報を聞かせろという訳では無い。世間にだって知る権利はあるのに。ヒーローだって人気商売である事は否めないはずなのに。


「オールマイト!お願いします!」


ガシャン!という大きな音を立てながら高い壁がそびえ立った。私は驚き尻餅を付きそうになる。これでもかと目が飛び出ていることだろう。

「雄英バリアだ。俺達はそう呼んでる」

ださ.......!!心の中で叫んだつもりだったが、言葉に出てた。


(何よそれ。お高く止まっちゃって。)


早く結果を出さなければという焦りと、もともと気が強いのも合わさって、身勝手な言葉がつい口からスべり出た。


「2日もはってるのにうんともすんとも言わねー。」


他局も煮詰まっているようだった。自分達は何を自分勝手な事を言っているのだ。それは分かっている。天気が更に悪くなり、雨が降り出しそうだった。黒ぐろとした雲はまるで私の心情を映したようだった。私の中で小さかった闇がどんどん大きくなる。今日も結果が残せないのか。そう心の中の呟き、その場を後にした。



−−−オールマイトは一言もコメントをくれないのか?−−−


氷のように冷たい声が響いた。
声の聞こえた方を私は勢いよく振り返る。1人になりたかった私はクルーと別れてトボトボ歩いていた。小雨が振り始め、水滴が鼻頭に当たり不快感が走る。傘を持ってくればよかった。


−−−秘密、教えてやるよ−−−


私の目の前に居たのは雨色の髪をした猫背の不気味な少年だった。掌のような物が顔面を多い表情はあまりよく分からない。しかし彼の口元はにや付いていた。


「どういうこと?」



雨が鬱陶しい。彼の投げやりな話し方が少し勘に触る。失礼するわ、と言いかけた時に近くで大きな地響きが鳴る。後で知ったが雄英バリアが破られたそうだ。


「なに.....!」


−−−他に先を越されちゃうよ?いいの?−−−



薄ら笑いを浮かべる少年の囁きは私の闇に付け入るには充分だった。




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「......すまない....」



通勤途中にヴィラン出現を無視出来ず私は活動限界を迎えていた。通話を終了し、仮眠室のソファでため息をついた。教鞭をとるにあたって、ヒーローであり続けようとする自分。我ながらに模索していた。



「まーちーなーよ!」


校長先生の声だった。


「本日も大変整った毛並みでいらっしゃる.....」


私の1日はまだまだ長そうだ。




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昨日の雨は夜中まで止まなかった。
あの顔色の悪い男の子は、何かを企んでいるのは確かだ。振り返るともうその子はいなかった。私はオールマイトを探してダメだと思いつつも昨日顔色の悪い子が言っていた時間に雄英に入る。確かにセンサーは反応しない。スーツを来ていれば、事務員として見られ意外と怪しまれなかった。キョロキョロしているとオールマイトが物凄いスピードで通り過ぎるのが見えた。見たことも無い形相で。この行為は不法侵入だが、今の切羽詰った私に彼を死にものぐるいで追いかけるしかなかった。勿論、彼は瞬きをするくらいの一瞬で居なくなってしまったが。

「絶対に、コメント貰ってやるんだから.....!!」


もはや根性だけが私を動かしていた。手ぶらで帰る訳には行かない。もともと運動神経もない私はぜえぜえ言いながらある施設にたどり着く。うぇっ嘔吐に襲われる。






(.....いた!!!!....)




オールマイトがぶち壊した入口から除くと、そこは地獄絵図が広がっていた。ヴィランは仕事柄見たこともあるが、それは。そう、戦争だった。



「なんで、こんなとこにヴィランが...」



私の足は勝手に動いていた。
私は何故気づかなかったのだろう。
愛おしいあの人の声がオールマイトと酷似している事を。
愛おしいあの人とオールマイトの瞳が同じく綺麗な碧色である事を。


もっと早く気づいていれば、最悪な形で知らなくて済んだのに。
本当に現実は残酷だ。