オールマイト!
早く来てくれオールマイト!
オールマイトは何してるんだ!
お願い。
もう彼の名前を呼ばないで。
お願いだから。
オールマイト!
お願いだから彼をもう求めないで。
私の身勝手な願いは誰にも届かない。
勿論彼にも。
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あぁ。
私の残り火よ、まだ消えないでくれ。
「ほんっと馬鹿だねあんたは!動けなくなったらどうすんだい!」
私はリカバリーガールからお叱りを受けていた。脳無とやらとの対決後治癒してもらい、歩けるようになった私はすぐ様になまえを探しに飛び出てしまったのだ、無理もない。包帯だらけの身体に、息は切れるし血は吐くし、とてもじゃないけど褒められたような姿ではなかった。だが、今彼女と話さなければ駄目だと思った。
「話はすんだのかい?」
彼女と別れてから再び保健室へ戻ってきた。リカバリーガールが走ったせいで血が滲んだ包帯をかえてくれる。緑谷少年が奥で不思議そうにこちらを覗いていた。
「どこに行かれてたんですか?オールマイト」
ベッドに横たわりながら少年が私に問いかけた。私が言葉に詰まると少年はお答えにくいことだったら大丈夫です、僕なんかが聞いてすみません....等とごにょごにょいつものように1人で話し続けていた。
「久しぶりだな、オールマイト」
塚内君の声によって助けられる形となり、その場はヴィランの話となった。その後、しばらくベッドで休み、タクシーで緑谷少年を送り私も帰宅した。
−顔色の悪い気持ち悪い子に会ったの−
彼女はそう言っていた。恐らく、私のやせ細った身体や殺害の瞬間をマスコミで働く彼女にスクープさせようと企んだのであろう。彼女にヴィランが近づいたと思うとゾッとする。確かに今回は危なかった。トゥルーフォームにもう少しで戻ってしまうところであった。
(私は、抗い続けるのだ)
ため息をつき、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出した。グラスに注ぎ、喉を潤す。渇いた喉を冷たい水が通る感覚が気持ちいい。ずっと放置していたスマートフォンに目を向けた。
(お身体心配です。ご迷惑でなければ御見舞に行かせてください。)
彼女はいつもご迷惑でなければ、と付け加える。私が迷惑だと断る訳がないのに。そもそも、年甲斐もなく私は今すぐに会いたい気持ちでいっぱいだった。だが、身体は汗臭いし埃だらけだし、今日のところは止めておこう。今日以外ならいつでもいいよ、と返信を送る。雄英の仕事も何日かお休みをいただける事になった。まあ3日後には会議だが。その日は身体を蒸しタオルで拭き取りすぐに休んだ。
「俊典さん、行かないで」
なまえの声で翌朝は目が覚めた。まだ瞼を閉じると泣きじゃくる彼女の顔が浮かんでくる。上半身を起こし日が差し込む窓をみた。カーテンからこぼれる太陽が眩しい。少し寝すぎてしまったようだ。やはり疲れていたのだ。身体が重い。不意に涙腺が刺激される感覚に襲われた。眉間に手を当て目頭を押さえた。
「いかんいかん」
屈してはいかんのだ。平和の象徴よ。
ベッドから降り立ちコーヒーを作りにキッチンへと向かう。今日はそうだな、以前なまえが気になると言っていたコーヒー豆、飲んでみよう。彼女が話題にした豆を私はすぐ様にアマゾンで購入した。
「ほんとに好きなんだな、私」
ぼそっと呟き朝食用のパンをトースターに入れる。彼女が好きだと言っていたジャズシンガーの曲を流す。今日はどっぷりセンチメンタルに浸かろう。そうだ、あの映画をもう1度観てみようかな。ソファーに腰掛け目を閉じた。コーヒーを1口、口に含んだ時、入口のチャイムが鳴った。
「御見舞に私がきた!えへへ」
(抱きしめたい)
心の中の声をブンブンと顔を振りインターフォンの画面の前でニコニコと立っている彼女を招き入れる。
「すみません、いつでもいいと仰ってたので、御見舞にきた次第です。」
「今日はいやに改まってるね」
なまえは何かを感じ取ったのか、私の顔を泣きそうな顔でみた。そして、儚げに笑みを浮かべた後ブーツを脱いで揃えた。
「あ、私の好きな曲」
しまった、と思った。彼女の好きなコーヒーに彼女の好きな曲。おまけにテーブルには彼女とみたフランス映画。
「俊典さん、私の事考えてたでしょう」
先程とは打って変わっていたずらに笑うなまえに、私は口をへの時に結んだ。心の中の雁字搦めにされた心の臓が解きほぐされた気分だった。
「俊典さん?」
「ん、なんだい?」
なまえは私の元にかけより華奢な腕をゴツゴツした私の背中にまわした。
「ヒーローは泣くことも許されないのですか?」
思ってもみない言葉だった。彼女は私を抱きしめ背中をトントン、とたたく。そして骨ばった背中を柔らかい肌でさすってくれた。
「あなたはヒーローである前に1人の人間なんですよ。オールマイトではなくて俊典さんの時くらい、本能に従ってもいいでしょう?」
あなたを救うのは私でありたい。そうなまえは言った。
「朝食は食べたかい?」
「はい、でも小腹は空いてます」
「君は私と一緒で少食で燃費悪いからな。食べる?」
先程作りかけだった食パンをもう1枚トースターにいれ、2人でキッチンに立った。彼女がレタスをちぎり私が卵を焼く。なんだか夫婦になった気分でくすぐったい。
「..ふふっ。」
ニヤニヤしているなまえになんだい?と問うと彼女は笑窪を作りこう答えた。
「こんな何でもない日常って、幸せですね」
私が求めていたものは、この笑顔だったのかもしれない。
「愛してるよ」
心の底から出た言葉だった。左手でフライパンを握り右手で彼女の頭を胸元に引き寄せる。私がこの様な幸せを感じてもいいのだろうか。
「やっぱり俊典さんのいれるコーヒーは美味しい。今度は私にいれさせて下さいね。」
彼女と2人でソファーに腰掛けあのフランス映画を流した。今回は魅入ると言うより、ほぼBGMだが、心地よい時間だ。
(引退後はこう過ごすのもありなのかもな)
しかしその静寂を壊すかのようにその連絡はきた。
「街中でヴィランが暴れてる!出れるかオールマイト?」
塚内くんからの連絡だった。私はいつものようにソファから立ち上がり足早に玄関に向かった。ただひとつ違うのは、私の右手にしがみつく華奢な手だった。
「俊典さん、行かないで」
涙をいっぱいに貯めながらなまえは訴えた。何故あなたじゃないとダメなのか。まだ先日の決戦後の怪我も治っていないのではないのか。彼女はお願い、と涙を流した。
「すまない。それでも私は行かねばならんのだ」
すまない。そうもう1度言って私は飛び出した。