生きてるって事です。

オールマイトは頭を抱えていた。
カチカチと掛け時計の秒針音が響く。ヒーロー兼教員達は会議室に集められていた。ヴィランによって生徒が拉致されたからだ。オールマイトが標的だと思われたヴィラン連合。今回の合宿にオールマイトが参加しなかったのは狙われるのを危惧してのことだったが、敵は一番痛いところをついてくる。


「私は半身浴に興じていたなんて....」


私が穏やかな休日を過ごしている間に、生徒達は怖い思いをしたのだ。否、爆豪少年は今もなお不安に違いない。
校長先生をはじめ教員達は今後の対応に追われていた。


(今日は帰れそうにない)



長い会議の後なまえにLINEをいれ、私は塚内君との話し合いにうつった。


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「俊典さん、大丈夫かな」


彼のいないこの家は更に広く感じる。深いブラウンを基調としたシンプルな部屋。アメコミに出てきそうなオレンジ色の冷蔵庫。棚に並ぶオールマイトカラーのマグカップ。せっかく作ってもらったんだ、使わなきゃ勿体ないだろう?と彼は言っていた。



(コーヒーでも飲もうかな)



俊典さんは私が転職しようとしている件におそらく気づいている。だが、何も言わない。彼に知られたら必ず反対されると思っていた。私は以前働いていたマスコミ会社を退職した。今は美容関係の面接を受ける予定だ。



--速報です。有名ヒーローを輩出する雄英高校の生徒がヴィランにより拉致されました。繰り返します-----



私はバニラフレーバーのコーヒーをカップに注ぐと、1口含んだ。テレビで以前私が担当していた番組が流れる。



--なお、この一連の事件は、オールマイトを狙ったヴィラン連合によるものだと---



身体がぐっと強ばるのを感じた。No.1ヒーローオールマイト。彼はきっと、この悪の渦巻く世界を己のせいだと感じている。彼はそういう人だ。



「私がしっかりしなきゃだめ。頑張るのよ、なまえ」



スマートフォンを握りしめソファに身を委ねる。連絡を待ち続けよう。私には待つことくらいしか出来ないのだから。




「ただいま、起こしてしまったかい?」




彼が帰宅したのは時計が12時を過ぎ昼間であればティータイムにさしかかる頃。いつもならば色気さえ感じさせる彼の窪んだアイホールも、今夜は心なしか影が重たく見えた。



「おかえりなさい」



上着を脱ぐなり俊典さんは私をきつく抱きしめた。まるで私を己に記憶させるかのように。トゥルーフォームであれ彼の力は強い。私なんかでは敵わない。


「ちょ、痛いです」
「ああ、すまない」


ゴツゴツとした腕に込められていた力が弱まる。力の抜けたからか俊典さんの腕が微かに震えている事に私は気がついた。


「俊典さん」
「笑えるだろう?止まらないんだ、震えが。明日、ヴィラン連合のアジトに乗り込む。」
「...........俊典さん」
「私は明晩も君を抱き締めることが出来るだろうか」
「...............俊典さん!」


彼も人の子なのだ。窪んだ奥に見える碧い瞳。その瞳も今は震えていた。私は彼の頬に両手で触れた。決して滑らかではない顎から耳へかけてのライン。骨ばった肉の削げ落ちた頬には髪の毛と同じ色のヒゲが生えていた。


「ふふ。チクチクする」
「ああ、もう夜中で伸びちゃったんだね。ごめん」
「生きてるって事です」
「.......」


目の前の彼はかつて私の追い求めていたNo.1ヒーローオールマイト。平和の象徴でもあり、抑止力。だがその実はたった1人の普通な人間。私の愛する俊典さん。
言葉に詰まっていた彼を見れば、彼は目頭を強く抑えていた。



「お風呂、用意出来てます。食事は済ませてきたんでしょう?」
「あぁ、ありがとう。助かるよ」



バスルームへと消えていく彼の後ろ姿に、堪えることの出来なかった涙が溢れた。

(だめよ。あなたがしっかりしなきゃ)



そう。私が泣いてはダメなのだ。彼は内なる恐怖に打ち勝つために笑顔で悪に立ち向かう。私はそんなヒーローに寄り添う立場。彼を支えなくては。




「いつもなまえには助けてもらってばかりだ」
「ヒーローにも助けは必要でしょう?オールマイトにも。」
「君のその優しさについつい甘えてしまう」
「私が望んだことだから」
「....こっちへおいで」



彼は私の瞼、頬、耳たぶへ順に口づけた。そのまま唇へとうつる。瞬時にとろけそうな感覚に陥る。こうなると私の思考は停止してしまうのだ。



「俊典さん、早く寝ないと...」
「いいんだ..。........いいんだ。」


彼は私の言葉を遮り、2度同じ言葉を口にした。その後彼は直接は言葉に出さなかったが、濃厚なキスから伝わってきた事がある。


((どうか、今だけでも君の身体に私を残したい))


それはエゴなのかもしれない。酷く身勝手なのかもしれない。しかしながら止めることは出来ない。互いに求め合い私達はベッドでどこからどこまでが自分で、どこからが俊典さんなのか分からなくなるほど溺れた。




翌日がオールマイトの最期の1日になるとも知らずに。
いや、悟りながら。