それから1週間がたった。
実際私は緑谷少年の特訓がラストスパートにかかり忙しかったし、彼女もマスコミという職についているのならば生活の時間も不安定、忙しくないはずがなかった。
そんな1月の下旬、火曜日。
私はいつもの様に雄英の裏側から通勤していた。寒空にピンとした空気が漂う。ベージュのコートの衿をたて、はぁと息をついた時。あの整った可愛らしい横顔が目に入った。彼女がベンチに座っていた。
「おはようございます!」
白い息をはきながら彼女は駆け寄ってきた。何故だろう。この胸の奥でとくん。と熱くなるのを感じた。彼女の顔を見るだけでこんなにも自分の頬が緩むなんて。いい歳して何やってるんだ、私は。
「おはよう。久しぶりだね、元気だった?」
なるべく平静を装いながら彼女に問いかけた。彼女ははい!と笑顔で答えた。
「あの、LINEしようかと思ったんですけど、私は思い立ったら直ぐに行動しちゃうタイプで、すみません、あはは。」
頭をかきながらそう言った。なんでもオールマイトに来月の特番へ出演してもらえないか交渉しにきたみたいだった。普通なら事務所を通してもらうのだが、雄英にて教鞭を取ることにした為、六本木の事務所はたたんだのだ。
(なんだ、私に用ではないのか。)
なんだか不思議と腹が立った。馬鹿だなぁ。
「わかった。彼に聞いてみるよ。」
そう伝えると、ニコッと笑窪をつくり笑った彼女は缶コーヒーを渡してきた。
「ブラックです。それでは私は別の張り込みがありますので。あ、またご飯行きましょうね!連絡待ってます。失礼します!」
頭の中で'連絡待ってます'がずっとエコーしていた。手のひらから感じる缶コーヒーの温もりがじわじわ私の温度を上昇させる。アツアツではないところが、彼女がしばらく私を待つために時間を割いてくれた事をあらわしていた。
----------------------------------------------------
(やったー!!)
やっぱりお願い事する時は、スマホに頼らず直接会って直談判に限る。絶対に成功する訳ではないが確率はあがる。
(マイティーさん、少し顔疲れてたなぁ。ちゃんと食べてなさそうだし。)
私はお礼を伝える為と、ご飯のお誘いの為にLINEを開き、彼にうさぎのスタンプを送ろうとした。彼の両端に垂れる前髪がうさぎの耳が項垂れている様に見えたから。うさぎのスタンプ。単純だけど。
「コーヒーありがとう。実は、ちょっと行ってみたいバーがあるんだ。よかったら今夜どう?また映画の話で盛り上がりたいな。」
ちょうど送ろうとした瞬間に彼から連絡がきた。タイミングばっちりじゃない。しかも私からお店を提案する予定が、彼の行きたいお店に行くことに決定した。行ってみたいと言われたら、そこにするしかない。お互い次の朝が早いからてっぺん(12時)をまわらないうちに解散の予定で。とのことだ。
(それなら安心よね)
ひと回り以上歳上の男性。特に恋愛対象として見ている訳では無いが、夜のお酒は一歩間違えると思いもよらない展開に進んでしまう事がある。似たような事は経験した事もあるし、それがどんなものかわからないほど私はもうウブな年齢ではなかった。
夜のバー。どんな服を着ていこう。赤リップがいいかな。歳上の男性とだし、落ち着いたピンクベージュがいいかしら。イヤリングは1粒で大人っぽく。そんな高いドレスは持ってないけど、それなりにフォーマルなものにしよう。
あぁ、女に生まれてよかった!
私はルンルンで残りの仕事をしながら今夜のファッションやヘアメイクについて考えていた。
(なんで今日に限ってこんなに仕事があんのよ、、、。)
約束は7時だったのに、現在時計の針は9時前を回っていた。マイティーさんにはお詫びの連絡をいれておいたが、楽しみにしていたぶん本当に悔しい。
私の楽しみを返せ。いやでもこれで食っていってるのだ、仕方ない。
目処がついたので9時くらいにLINEをひらく。
「今終わりました。今日は本当にすみません。」
そう打ち込み送信ボタンをタップすると、彼からはいつもの如く直ぐに返信がきた。
「お疲れかい?君がしんどくなければ、1杯、少しだけでもどう?」
正直、このグダグダな感じで会うのは嫌だった。いつだって100%のわたしでいたい。初めて飲みに行くのに、恋愛対象でなくても、きちんとして行きたかった。
「喜んで!10時くらいになっちゃいますけどいいですか???」
そのはずなのに、私は迷わずそう返信していた。
彼とは近くのメインストリートで待ち合わせをした。私の家は職場から近いので、お家に急いで帰り、シャワーを浴びる。髪の毛を乾かし、ヘアアイロンで今流行りのラフなアップスタイルにぱぱっとアレンジした。時間は限られている。メイクを簡単に直し、お家を飛び出した。