本来なら、別の日にリスケジュールするべきだった。なのに今、私のベッドに転がっでいるあの華奢でぷくぷくのほっぺの生き物は何だろう。すぴーすぴーと大口をあけて無防備に寝息を立てている。
緑谷少年がどんどん体力を付けてきて、体つきも変わってきた。彼の成長が嬉しい反面、次世代の眩しさに自分の衰えを強く感じさせられた。私は彼にもうすぐ力を譲渡し、更に衰え、消えていくのだ。とてもセンチメンタルになってしまった昨日は、1人では居たくなかった。そんな時に彼女に甘えたくなってしまった。年甲斐もなく、ほんの数時間だけ、彼女に癒されたいと願ってしまった。
(すぴー。すぴー。。)
夜のライトに照らされた彼女はいつもの可愛らしさだけでなく、艶を帯びた色気を醸し出していた。別人のように大人の女性に見え、ドキッとしてしまった。
「遅くなってすみません、マイティーさん。」
お互いお酒は好きだがほとんど飲めない。共通点は沢山あった。彼女はとても小柄で華奢だ。胃がおそらく小さいのだろう、私と同じ量しか食べれない。本人曰く人に合わせて沢山食べると、後でお腹壊しちゃうの、だそうだ。
「だからマイティーさんとだととっても気兼ねなくお食事できちゃいますね」
えへへ。と笑う彼女に私は気づきそうになってしまった。目を向けないようにしていた感情に。いいじゃないか、マイティー。都合のいいお食事相手程度が一番丁度いいはずだ。
「ここだよ。雰囲気が好きで、でも1人だと入りづらかったんだよね。」
2人で長細い長方形の広くはない雰囲気のあるバーで、私はバーボン、彼女はシンデレラというノンアルコールを頼んだ。相当弱いらしい、1杯目から飲み始めると自分でも歯止めが効かないそうだ。
「そうそう、私何年か前に飲みすぎて、といっても2杯なんですけど。失敗談聞いてくださいよー。もともと仲のいいお友達だったんですけど、、、」
人懐っこい笑顔で語りかけてくれるみょうじさん。あぁ、頼むから違う男の話はしないでくれ。今は。今だけは。君に癒されたいんだ。
「マイティーさん??」
不思議そうに彼女は私を覗き込んだ。くりくりの目に、長いまつげ。彼女の瞳はカラーコンタクトでも入れているのか、薄いブラウン、少しグリーンも混ざっているように感じた。
「あぁ、ごめんごめん。みょうじさん、それカラーコンタクト?とっても綺麗な瞳だね。」
彼女は自分の瞳を指差し私は裸眼です!と鼻息強めに言った。カラーコンタクトと間違えられるのが少し嫌だと言う彼女は表情がころころ変わり見ていて本当に飽きない。
「でも偶然ですね。私も、初めてあった時にマイティーさんの碧色の瞳に見とれちゃったんですよ?なんていうか、吸い込まれそうというか……。」
しばらくお互いの瞳を見つめあった。覗き込むように。確かめるように。
「あ!私、次のお酒頼みますね、何にしようかな...,,,,」
彼女は頬を赤らめながら次のカクテルを頼む。次はアルコールだ。間違えでなければ、彼女は照れ隠しにお酒に力を借りようとしているように見えた。
「ここで流れてる曲、懐かしいです。私学生時代に聞いてました。」
そう呟きみょうじさんは有名なジャズシンガーの名を上げた。実は私はそのジャズシンガーの出演した番組で共演したことがあるのだよ。
彼女を喜ばせたくて話しそうになる気持ちを抑えながら、私は彼女を見た。
1杯目で頬と耳まで赤くなっていた。ああ、もう。これ以上はだめだ。おじさん変な気をおこしそう。
「そろそろ11時すぎだし、明日の為にお開きにする?」
「えー。もう帰っちゃうんですか?もう一杯付き合ってくださいよー。」
頬を赤らめた彼女が頼んだのは柑橘系の違うカクテルだった。
(困ったなぁ。)
私は全く酔えなかった。
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目が覚めた。
清潔感のあるオフホワイトのシーツ。
でも無臭じゃなくて、ずっと嗅いでいたいような、お香のようないい香り。
私はピローに顔を埋めた。
(ふふ〜ん。いい気持ち。まだこのまま.....)
「おはよう。寝ぼけてるのかい?」
それは色気のあるガリガリさんの声だった。
「え、あ、おは?ようございます?」
ガチガチと音が出そうなくらいのロボット並の首の動きをさせて振り向いた。
声が勿論裏返る。
「あ!今何時?!遅刻?!!」
次に脳裏をよぎったのが仕事に間に合う時間かどうかということ。大変。今日も出勤なのに。
「今ね、まだ4時だよ。朝の。」
お酒飲んで寝ちゃったから早く目が覚めちゃったんだね。そう呟きながらマイティーさんは私にタオルを渡してきた。
「とりあえず顔、洗っておいで。ほら。」
マイティーさんは自分の口元を指さしながら次は私を指さした。
あぁ。ヨダレ垂らして寝てたのね.....顔から火が出そう。
「じゃなくて!私なんでマイティーさんの部屋に?ベッドでかすぎでしょ!あ、いや、今はそうじゃなくてその......」
マイティーさんはまだニコニコしてる。とりあえず目を覚ましておいでとのことだ。私はエチケット用の歯ブラシを持って洗面台借ります、と下を向きながら進んだ。
(お酒臭い。私。顔もボロボロ。常に100%の私で居たいのに、、今は−35%ね)
全く記憶にないのだが、歯を磨きながら考えないようにしていた事に思考を傾けた。昨日は瞳の話になって、変にムードがよくなっちゃって。急に恥ずかしくなってしまった私はお酒の力を借りようと定員さんを呼んだ。アルコール2杯目を飲んだ私は、頭が妙にくらくらして、マイティーさんがタクシーに乗せてくれたから、自分の住所を言おうとして...
(そこから記憶がない.....)
私はドアに半身を隠す状態でマイティーさんに話しかけた。
「私、昨日マイティーさんになにかしましたか?...,,,,」
マイティーさんはお腹を抱えて笑い始めた。
「HAHAHA!本当に君は見てて飽きないな。コーヒー入れたよ。こっちに着て座りなさい。」
促されるままに一人暮らしにしては広すぎるリビングのイスに腰掛けた。