私だけの秘密だぜ?

目が覚めた彼女は案の定百面相のように表情をコロコロ変えた。昨日の話をどう説明しようか私も緊張していたのだが、彼女があまりにも可愛い動きばかりするので、声を上げて笑ってしまった。ついでに血も吐いた。吐血に関しては彼女は突っ込まないでくれた。

(何かしましたか?って普通何されたかだろ。本当に面白い子だなぁ。)


「簡単に言うと昨日は何もなかったよ、私はソファで寝た。タクシー乗せたのはいいけど、君住所言いかけて寝ちゃうんだもの!1度寝たら起きないって飲んでる時に言ってたけど、本当なんだね。悪いと思いつつ連れて帰ってきちゃった。」


だけど、頬にキスをしたのは私だけの秘密だぜ?


「なんだかご迷惑をおかけして申し訳ありません。マイティーさんがいい人で良かったです。」

まだうなだれている彼女にもう気にしなくていいよ、歳は離れてるけど友達だろ?と親指をたてると、はい!と笑顔で答えてくれた。その笑顔に少しちくりとした痛みを胸に覚えながらも私はまた気づかない振りをした。

「マイティーさん、お金持ちですか。お家ひろいですねー!しかも、清潔感ある。これはモテ部屋ですよ。」

先程までのしゅんと小さくなっていた姿とは打って変わって今はまたえへへと笑っている。

「これ映画用のプロジェクターですか??凄い!映画館要らずじゃないですかー!」

みょうじさんは私の棚にある何枚もあるDVDコレクションを眺めながらルンルンで知っているタイトルを探しているようだった。


「みょうじさんは随分と古い映画も知ってるよね。本当に好きなんだなぁ。嫌じゃなければ、休みのお昼とかに、映画観に来るかい?」


そう。あくまでも私達はお友達なのだ。

(よく言うよ、昨日は理性を保つ為にソファで全然寝れなかった癖に)

私は眉を下げながら笑った。
その後1時間ほど談笑し、始発が出る時間に彼女は帰っていった。

別れた直後にLINEがきた。

「昨日はありがとうございました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。コーヒー美味しかったです。こんなにいいお友達ができて私は幸せ者です。映画是非観にお邪魔させてください。」

うさぎの可愛いスタンプと共に送られてきたメッセージの'お友達'という単語に私の胸奥はやはり反応していた。

「気にしなくていいよ、友達だろ?いつでも観にきていいよ。コーヒーと一緒に観よう。みょうじさんは甘いの好きみたいだから、シロップ用意しとくよ。私、コーヒー入れるの自信あるから」

フレーバーは何がいい?バニラ、キャラメル、メープル?そう彼女に問いかけた。
友達だろ?と自分で打ったメッセージが私をあまりにも悲しい気分にさせた。


「全部好きですけど、バニラかな」

彼女とのLINEはそれで終わり、次に会うまで2週間は空いてしまった。今思えばこの時自分の思いを告げて全て告白していれば、もっと上手くいっていたのかもしれない。自分の気持ちに蓋をしながら、平和の象徴たるもの…とどんどん自分と彼女の首をしめていた事にどうして気づけなかったのだろう。



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始発で朝帰りした私は急いでメイクを落とし、シャワーを浴びた。メイクをしたまま寝てしまったのだ、保湿重視で少しでも栄養を与えなくては。まだ20代とはいえ10代の頃とは違うのだ。


「パックパック〜」


お風呂を溜めて、パックをしながらゆっくり浸かる。


(マイティーさん。私なんて子供にしか見えないわよね.....。)


昨晩、マイティーさんの部屋に泊まってしまった。何も無かったという事は、私には女としての魅力を感じないということ。勿論、私も彼の事はお友達としか見てなかった。なのに。


(バーでのマイティーさん、私なんかより色気があって、ずっと見ていたいような、そう。そうね。あの碧色の瞳に吸い込まれそうになってしまった。)


カポーン。とお湯をたたき私は目を閉じた。友達のはずだった。目を閉じると彼の碧色の瞳が誘惑してくる。目を離さないで。そう言われているかのように。


「よし!準備しよう。」


今日の占いは12星座のうち11位。あんまり良くないな。そして天気も雨。しとしとと降り続く雨音に耳を傾けながら顔色だけでも元気に、といつもより多めにチークをいれた。


「おはようございます!」

出社し、先輩に挨拶をした。なんか顔色悪くね?そう指摘され二日酔いですとは言えずに適当に笑ってごまかす事しか私にはできなかった。


あれから2週間がたつ。ちょくちょくLINEはしていたが、なかなか都合が合わなかった。本音をいえばそれを理由にしていた。次会ってしまえば、友達ではなくなってしまうような気がして、怖かった。よく考えてみれば私は彼の年齢も、フルネームも、知らない。
弾みで言葉を告げるには勇気が足りなかった。彼に顔を横に振られるのが嫌だった。


もうすぐ3月。入試やら新学期やらで事務関係の仕事をしているなら忙しいであろうマイティーさんから、連絡はきた。


「やぁ。元気?今日お茶しない??」


私はいつものベンチで待っていた。ここ最近私の仕事運は良くない。以前マイティーさんにお願いしたオールマイトの特番もお流れになってしまったし、近頃全くオールマイトは姿を見せないのだ。あの巨体、歩いていれば直ぐに目撃情報が出るはずなのに、海浜公園での目撃情報を最後に全く情報が出てこず、私は躍起になっていた。

(...,,はぁ。)


しかしここでマイティーさんを頼るのはあまりにも都合がよすぎる気がして何も言えないでいた。



「久しぶりだね」

まだまだ、冷える寒空の下、マフラーをしたマイティーさんが現れた。今日はマイティーさんが探してきた隠れ家的なカフェに連れていってくれるそうだ。

「マイティーさん、痩せました?」


シャープな頬が更にこけたように感じた。忙しかったのは本当なのだろう。カフェに着くと、そこはまるでジブリの世界から飛び出してきたような場所だった。

「君、こういうの好きだろ?」

今までの緊張や不安をよそに、私はスマホ片手にかなりはしゃいでしまった。一生懸命いいアングルを探しながら写真を撮ったり、メニューの名前に感動したり、コーヒーは私好みでバニラフレーバー。とっても美味しかった。

「マイティーさんよく分かってますね、私のツボ。」

そうだろ?と彼は爽やかに笑った。

何を緊張していたんだろう。私は。この人がそばに居るだけでこんなにも気持ちが和らぐのに。なんだか吹っ切れた気がした。

「マイティーさん、今日このあとスケジュール埋まってます?私珍しくもうこのままオフなんです。もしお時間あれば映画観にお邪魔しちゃダメですか?」


彼は少しだけ驚いたような顔をして、勿論さ、とニコニコして言った。
ただ男の一人暮らし、少しだけ片付ける時間を貰ってもいいかい?と言う事なので、私も1度家に帰ることにした。
お昼ではないし、ディナーに近い時間だ、料理上手なマイティーさんが手料理を振舞ってくれるそうだ。代わりと言ってはなんだけど、私もワインでも持っていこう。

(たのしみ〜。)


以前お邪魔した際にみたDVDの棚に観たかったタイトルがあった。私はあんなに会うまでは緊張していたのに、かかっていたモヤが晴れたように、何も考えずに準備をしていた。