まさか彼女が現れるなんて思ってもみなかった。ふわりと香るホワイトフローラル。ラストノートはサンダルウッドの温かみのある香りへと変わる。それは過去に彼女と長い時間を共にしてきた私には容易に分かることであった。



「一体今までどこにいたんだ!まさかまだヴィランとして......危険な事に首を突っ込んでいるんじゃあないだろうな」


久しぶりに会った彼女...くるみは少し痩せていた。私の中で不思議と憎しみという感情はなく、オールマイトとして彼女を救わなければという気持ちにかられた。



「あら、心配してくれるのね。俊典。あなたは昔からそう、人の事ばかり気が向く人。それが例えヴィランであったとしても。」


彼女は声高々に抑揚を付けてそう言った。何かを自慢げに話す時に右眉が上がる癖、変わっていない。



私が彼女を更生させなければ。
私が彼女を、救わなければ。


だがどうすればスムーズにいくのか、脳内で巡らせていると、隣にいたコトエが瞳を涙いっぱいにして私のシャツを掴んだ。



「どういうことですか?2人は、、、俊典さんの以前生活を共にしていた女性って」


震えるその声に私はどうしようもない自己嫌悪に襲われた。彼女を傷つけたくない、だがオールマイトよ、目の前のヴィランを野放しにしても良いのか。



「そうよ、黙っていてごめんなさいね、コトエさん。でも俊典、私はもうヴィランとつるむのは辞めたの。真面目に働いて、真面目に生活をして」
「くるみ....」
「そして真面目にあなたと向き合いたくなった」



思ってもみなかった彼女の言葉に私は強く頭を殴られたような気分に陥った。遠い過去がフラッシュバックする。



「あの、私今日は帰りますね、積もる話もあるでしょうし」


私の静止も追いつかぬままコトエは走り去ってしまった。彼女は争い事は好まない性分だ。きっと自分が身を引けば丸く収まる、そう思っているに違いない。今すぐ追いかけなければならなかった。だがそれをくるみが許さなかった。



「ねぇ、ちゃんとこっちを向いて」
「くるみ」
「また私を愛して」
「.....すまない」



華奢な指を私に絡めてきた彼女をそっと払いのけた。そして真っ直ぐ彼女の目を見てこう言葉を続けた。



「私には心に決めた人がいる。確かに過去、私は君を愛していた。だが、それはもう過ぎた日のことだ。」
「..」
「私は過去に君を救えなかった。ずっと後悔し続けて生きてきた。一緒に警察へ行こう。君が過去に犯した罪は消えない。それが私に出来る唯一の君への償いだ。」




そう、私が今彼女にできる事はそれだけだ。そして私が愛することのできる唯一の女性はコトエだけなのだ。
揺らぐことはない。



「たった数年で変わってしまうのね」
「長い月日が流れたよ」
「私はあなたを諦められないわ」
「気持ちは受け取れない」



彼女は私が俯いた瞬間に消えてしまった。だが、この近辺に必ず潜んでいるはずだ。私は必ず彼女を捕まえる。



「絶対にだ」




自身の瞼に強く力を込め一言呟いた。私はコトエのあとを追うためマッスルフォームになる。辛い思いをさせてしまった。一刻も早く彼女を見つけなければ。今日は最高にロマンチックなデートにするはずだったのに。



「今日はツいてないの、かな!」




再度独り言を呟きながら地面を蹴った。
今夜は星が綺麗だ。コトエを胸に抱き空をかければきっと喜ぶことだろう。1秒でも早く彼女を抱きしめたい、私は更に両足に力を込めた。





「上手くいったわ」




向日葵のように笑うヴィランの声に気づかずに。




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