「では!本年度もヒーローの卵を見出してくれたまえ!」
根津校長の声に私たち教師陣は声に力を入れ答える。
2月26日、今日は雄英高校入試試験当日。
吸い込む息がひんやりと冷たく、吐く息は白い。
私たち教師陣は職員室で試験前の会議をしていた。私の近くのデスクには長身痩躯のブロンドの男と漆黒の髪の毛とコスチュームに身を包んだ男。
互いに目も合わさない。というよりか、私が一方的に俯いていたから合わないのだった。
「おはようございます、よろしくお願いします。」
(仕事だ、しっかりしなくては)
試験の様子をチェックするモニター室へ入ったところで、オールマイトこと八木先生に一礼した。
私はレウコトエという女である前に一人の社会人であり教師である。それを自身に言い聞かせた。
「あぁ、よろしくね」
八木先生も、同じく私に一礼した。
数日前のあの日から会話をするのは今日が初めてだ。
八木先生の下がった眉と目尻によったシワがなんだかとても悲しく見えた。
とても、胸が苦しい。
「今日の資料、お配りします。」
私は左隣に座る相澤先生に試験資料を渡した。相澤先生は無言で受け取り、隣のミッドナイト先生へと渡した。
この人もまた、大人の対応をしていた。
「では本日の試験の流れをご説明いたします。ーーーーー・・・。」
私は淡々と資料に沿って日程を読み上げた。予定通りに試験は進む。
モニターには次々とポイントをゲットしていくもの、一体もゲット出来ていないもの。様々が映し出されていた。最終的にレスキューポイントを見るためのロボット稼働ボタンに手を伸ばしたところ、八木先生がトン、と優しく私の手をおさえた。
(これは私がやろう。)
声に出さずとも目で合図を送られるのが悔しい。彼のしようとしていることが会話がなくともわかってしまう事が、悔しい。
私は八木先生の顔を見ているのが辛くなって画面へと意識を向けた。そして目を見開いた。
そこには先程までゼロポイントだった髪の毛に特徴のある男の子が目にも止まらぬスピードで彼の何倍もあるであろうロボットを粉砕したのだ。そう、まるでオールマイト並のスピードで。
「はやい」
「だろう?」
横で得意げな顔をしている八木先生が口端をあげてこちらに目配せをした。
ここでもまたなんでもオールマイトに結びつけてしまう自分が悔しくして私はすぐに目を背けた。
「ちっ」
私の左隣から小さく舌打ちが聞こえた。そちらに意識がいきかけた途中で八木先生がレスキューポイントの解説をし始めた。今年の入試試験も滞りなく終了した。
「レウくん、きみが私と話したくないのはよくわかる。だが、ケジメとして話をきいてくれないか。」
「・・・わかりました。」
八木先生と短く言葉を交わし、明日の夜会う約束をした。皮肉な事に他の日にオフがないため今夜は彼の元恋人、クルミさんと会う約束をしている。八木先生からは恐らく彼女とよりを戻すという話だろう。
昨晩1人で飲みながら考えた。
八木先生には振られるだろうから、
しばらく1人でいよう。
消さんとも、だ。
私は自分のデスクを整理しクルミさんと会うため約束のバーへ向かった。
外は流石に冷える。マフラーをまき、両手を口元に近づけてからはあ、っと自身の息で温めた。
「おい」
校門をでたところだった。そこには消さんが壁にもたれかかって立っていた。彼はいつもの充血した目で、こちらを見つめている。
「消さ、、、相澤先生。先日はお酒に付き合っていただきありがとうございました。もう大丈夫です。」
「・・・そうか。あんまりない脳みそ酷使するなよ」
「な!脳みそくらいちゃんと詰まってるわよ!・・・あ」
反射的に返してしまった言葉に、消さんはくくくと喉で笑っていた。
「まあせいぜい頑張んな」
消さんはヒラヒラと手を振りながらこちらに背を向け去っていった。非合理的を嫌う彼だ。ギクシャクしているのは面倒だ、という消さんなりの気遣いだったのかもしれない。
「ふふ」
私は微笑み足早にバーへと向かった。クルミさんと対峙する勇気が少しだけ、でた気がする。寒い中外で待っていてくれたのだろうか。寒空の下、立ち尽くしていた消さんを想像してなんだか嬉しくなった。
(クヨクヨしてても仕方ない)
カランカラン。
バーの扉を引き足を踏み入れる。周りを見渡すと以前クルミさんと座った椅子に彼女はいた。彼女は今日もホワイトフローラルを香らせ、向日葵のような笑で私を出迎えた。
「こんばんは。」
「こんばんは、コトエさん」
私は至極冷静を装いながら彼女の隣に腰掛けた。
「私は俊典さんを諦めないわ」
「そう。」
「だからね、あなた居てもらっても困るの」
「私がいようがいまいが、あなた達の関係はあなた達がきめることよ」
私の力のこもった言葉に彼女は少しだけ目を見開き、手元にあるブルーが鮮やかなカクテルを飲み干した。
まるでオールマイトの瞳のように綺麗なブルー。
「なら、もう話すことはないわね」
彼女は席を立ち、颯爽と出ていった。私は彼女のホワイトフローラルからムスクが顔を出してきた残り香に眉をひそめ、バーテンダーにカクテルを注文した。
(俊典さんにしては、気の強い女ね)
ふふ、と自嘲気味に鼻で笑い、私はカクテルを飲み干した。
「チェック、おねがい」
代金を支払い、席を立った。こんな可愛いカクテルじゃ酔えない。家に帰って飲み直そう、なんて考えながらバーのドアに手をかけた。
「あら、随分と早いお帰りなのね」
「え?」
カランカランと音を立てドアが閉まると同時に気が遠くなり、私の意識はそこで途切れた。
鼻腔には再びホワイトフローラル。
しまった。油断した。そう思った時には既に遅かった。
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