「消さん!起きてください!」


またこれだ。
コトエが自宅に戻って身支度を整えるのに20分。俺がパンとコーヒーを食べて歯を磨くまでに10分。
ということは差し引きあと10分俺はまだ横になれる。


「先に準備してこい」
「嫌!その間にまた寝ちゃうじゃない!」
「.......」


俺は返事をするのが面倒になったので合理的ではないと思いつつも重い体を起こした。前髪をかきあげ目を擦りながら5歩前にいるコトエに視線を向ける。



「はい!コーヒーも飲んで!髭も剃って下さいね!剃らないと出かけませんからね!」
「...んあ」


いつの間にか後ろをついてきたあいつ。
いつの間にか横に並んでいる、あいつ。



気付いたら朝食を用意してくれるようになっていて、通勤中も横でギャーギャー言いやがる。
危なっかしくて目が離せなくて、たまったもんじゃない。



「昨日22時頃発生した宝石強盗事件は、オールマイトの活躍によりスピーディに解決。警察からも迅速な対応を.....」


コトエがつけたのかTVからはニュースが流れる。このTVも俺はいらんと言ったのだが教師たるもの生徒の流行についていかねばとあいつに押され購入したものだ。



(オールマイトにバッタリ出会って..)


昨晩のコトエの顔が浮かぶ。頬を紅潮させ嬉しそうに語る彼女の顔を見たら酷く打ちのめされたような気分に陥った。



ああ。
俺はあいつに惚れてたのか。




「消さん!準備できました!」




元気よく扉を開け入ってきたあいつはまだ髭を剃ってない俺を指差しガミガミと声を上げ始めた。
全くうるさい奴だ。




「俺が見といてやらんとな。」
「ん?」


?の字を浮かべ瞼をパチパチとさせ形のいい唇を軽くすぼめながらあいつは俺の顔を覗き込んだ。

その唇に触れようとした己の意思を抑えながら、あいつのあたまをくしゃくしゃとさすり洗面台に向かった。

(無防備過ぎんだよ)



早くしてくださいねー!、と後ろから聞こえる声にひらひらと手を振り久方ぶりに俺は髭を剃り始めた。




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私はいつものように消さんを起こし髭を剃るように伝えてから、自宅に戻り身支度をし始めた。

少し、リップとチークをピンク系にしてみようかな。今日は恋愛相談をするつもりだし、大人っぽく行きたいのだ。


私がいつも選ぶチークはオレンジ。化粧はナチュラル派だが、顔色が悪く見えないよう、チークとリップは元気なイメージを求めてオレンジ系を付けていた。


ピンクなんて滅多につけないから少しドキドキする。


以前ミッドナイト先生に誕生日プレゼントで頂いたリップとチークのコフレ。コトエにはまだ眠っている本来の女らしさが活かせてないのよ!と力説してくれた。



「おーい」


ゴンゴン、と玄関のドアをノックする音が聞こえる。消さんだ。私はタートルネックにゆったりしたオールインワンをレイヤードし、小さなネックレスとイヤリングをつけ、最後に消さんに就職祝いで貰ったフレグランスを纏う。
性格のさっぱりした私には丁度いいフレッシュな柑橘系の香り。


「お待たせしました」
「..遅い」





私から香るふわりとしたシトラスやベルガモットの香りに気づいた消さんは心なしか嬉しそうだ。

「途中で本屋寄ってくれればそれでいい」

そう呟く消さんをむりやりカフェに引っ張る。彼は最初は嫌そうな顔をしていたがカフェの看板が見えた瞬間顔色が変わった。


「猫カフェならいいでしょ??」
「........」


私はカフェに入り、消さんを座らせ本題に入る。消さんは目の前の猫達に釘付けだった。そしてブラックコーヒーを1口含んだ。彼はすこぶる猫好きなのである。私は犬派なんだけど。


「ねぇ、消さん。私好きな人できたかも」


消さんは勢いよくコーヒーを吹き出した。



「ちょっとー!猫ちゃんかわいそう!」


盛大に吹き出したブラックコーヒーは猫達にもかかっていた。猫好きな消さんもその事については心が傷んだのか丹念に猫の毛を店員さんに貰った布で拭いてあげいた。




「でも私なんかじゃ釣り合わないかなぁ、太陽みたいな人なんです。全然近づけない。」
「....お前はその太陽、とやらに近づきたいのか。」



消さんは膝上におさまっている右手で猫を撫でながら、左手で肘をテーブルにつきだるそうに問いかけた。



「近づきたい、のかなぁ。横に並べたら、どんなに暖かいだろうって思います」

「せいぜい近づきすぎて焼かれないように気をつけるんだな」



消さんは目線を下にしたまま猫と睨み合いを始めた。私が欲しかった答えとは違う。そんなわがままな発想を浮かべながら私は自分のスマートフォンが光っていたのに気がついた。



「そういえば、いつだったかな。高校生の頃男に振られて泣きついてきたのは。」


消さんが猫から目線を外しこちらをにやつきながら見てきた。私はカァーっと顔が赤くなるのを感じテーブル上に置かれたピラピラのコーヒーの伝票を投げつける。


「いつの話ですかもー!」
「高校2年の夏」
「なんで覚えてるんですか」
「7月」
「忘れてください」



クククっと静かに笑をこぼした彼は席を立ち手をひらひら振り歩き始めた。よく見れば伝票が左手に持たれている。


「あ、待って!」
「それ、飲んでからにしろ」
「え」
「俺はやる事いっぱいあんだ暇人の誰かと違って」
「えええ!」
「また明日な」



見事に置いていかれた。実は良くある事なのだ。
消さんはいつも私の先を行く。彼の後ろ姿を目で追いながら自分のカップに手を伸ばす。




「家に着いたら一応連絡しろよ」



消さんがカフェを出てものの2分もしないうちにそう連絡があった。まったくこの人は優しいのか冷たいのか。私は軽くため息を着いた。そして消さんの下にあるトークルームをタップする。



「HI!レウくん時間あるかい?今日はオフだと聞いていたんだが私も午後はオフなんだ。もしよければディナーのお誘いしてもいいかな?」



それは太陽の神様からのお誘いだった。







「お待たせいたしました!」
「やぁ。急なお誘いなのに来てくれてありがとう。どこに行きたい?この辺りはリサーチ済なんだけど、なんせ越してきたばかりのものでね、でも後悔はさせないよ。」
「八木先生こそ、オフなのに私とディナーで時間潰れちゃっていいんですか?」
「いやに謙虚だなぁ。今日はいつもと雰囲気違うね。どこに行こうか。」





ドキドキの初デートの始まりだった。




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