私は何故こんなに不器用なのだろうか。
なんで初デートでお肉が食べたいなんて言っちゃったの...。


マンションのエレベーターの中で私はひたすら自問自答を繰り返していた。


「....はぁ」
「なにこの世の終みたいな顔してんだ」
「うわ!消さん!」



10階に到着しエレベーターの重い扉が自動で開くと同時にでたわたしのため息に、タイミング良く突っ込んできたのは相澤消太。私の先輩。



「私初デートなのにお肉が食べたいって言っちゃったんです....女性らしさの欠片もない...」
「そこがお前のいいとこだろ」
「え?」



くしゃくしゃと私の頭を撫で珍しく消さんは頭にポンポンと優しく手を乗せた。私は消さんを見上げるともう既に先へと歩き始めていたので慌ててあとを追う。
この人はいつだって優しい。
いつでも家族のように迎えてくれる。
優しい優しいお兄ちゃん。




「おやすみなさい」
「おう、おやすみ」




消さんと別れ自宅に入る。靴を脱ぎ手を洗った後、まっすぐとリビングに向かった。私の部屋はシンプルな白を貴重に統一してある。最低限のものしか置かない。
ダイニングキッチンに白いテーブルとイスが置いてあり、小さな棚には何本かお酒やリキュールが常備してある。
洋服もいたってシンプル。流行はあまり追わない。数も少ない。パリジェンヌ方式。
パリジェンヌは必要なものしかワードローブに置かない。少ない質の良いものを着回す。着飾らなくても颯爽とシャンゼリゼ通りを歩き、優美な雰囲気を漂わせる。そんな彼女達に憧れて私もシンプルな生活を心がけてきた。


「女性らしさ、かぁ」




女性らしさって何なんだろう。
消さんはそこがお前のいいところだろ、と言ってくれたが、オールマイトはどう思っているのだろう。
私は部屋も服装もシンプル。オールマイトの好みの女性ってどんな人なんだろう。
やはり華奢で可愛らしく守ってあげたいような小動物系女子、とか。


「何考えてんだか、私ったら」




白いテーブルの奥にある小さなソファに腰掛けた。左手にはベランダ。
つい先程までオールマイトといたベランダ。
オールマイトに憧れてもう十数年。八木先生とは出会ってまだ1週間。
かみさまが地上に降り立ってから私は少しづつ色んな表情を見てきた。私の中でかみさまという位置にあったオールマイトより、八木俊典という男性にどんどん惹かれていることに正直自分でも驚いていた。


あの暖かみのあるブロンドの髪の毛に触れてみたい。
あの青い瞳に見つめられたい。
あの眩しい程にも輝く、あの人に、
近づきたい。




「オールマイト、大丈夫かなぁ」


どんなに酷な状況であっても、彼は助けを求めている人を絶対に見逃さない。彼も人間である限り全ての命を助ける事は不可能である筈なのに、彼は救うことの出来なかった命を己の責任だと悔やむ。
そんな人だ。
救われた命は、彼に恩返しする機会すらない。



私はソファにもたれスマートフォンをタップした。時刻は21時を回っている。ロック画面を解除し通知の着ていたトークルームをタップした。
それはセクシーな先輩、かの18禁ヒーローミッドナイトからであった。

"今から行ってもいい?この前飲んだワインの味が忘れられないのよ"

この人の連絡はいつも急。とてつもなくいい香りを漂わせて周りを翻弄するのが平常運転だ。いつだって掴めない。
世の中の男性は彼女のこういう所に惹かれるのだろうか。
.........オールマイトも。




私はミッドナイトさんの為にワインを用意する。ワインはあの人のリップやネイルと同じ赤。少し辛口がお好みだ。
お酒が好きな人には重ための赤ワインが好きな傾向が強いが、私はサッパリとしたフルーティな白ワインの方が好きだった。
そこは先輩に合わせよう。


ピンポーンとインターフォンが鳴る。その艶やかな姿を確認し私はオートロックを解除した。ものの2、3分でエレベーターが到着するであろう。私はワイングラスを2つ整え玄関へと向かった。




「コトエー!来ちゃった」
「先輩は急なんだからー。」



語尾にハートを付けたような口調でミッドナイトは現れた。左手にはおつまみ。彼女はいつも持参してくれる。
ヒールを揃える彼女の後ろからもう一人、ブロンドロングヘアーの美人がこちらを伺っていた。



「どーもー。初めまして、マウントレディーとしてデビュー予定の岳山優でーす」
「初めまして」
「かわいいっしょ?生意気だけど」
「正直者って言ってくださいよ」



何だか、2人、キャラが少し被っているような。私は2人のスタイルの良さを下から上に見上げた後に自分のそれを見た。



(もっと胸欲しかった....!)




ふたりを招き入れマウントレディー事優さん用にワイングラスをもう一つ用意した。2人はあーだこーだ言いながらおつまみをせっせと準備してくれている。
まるで姉妹みたい。



「コトエさーん!準備OKです!飲みましょー!」
「はーい!」



席につき私たちはワイングラスをかかげ乾杯した。ぷふーっと声を上げ妖艶な笑みを浮かべるのはミッドナイトこと香山睡。同じようにぷはーっと口角を上げる優さん。
聞けば優さんは私より年齢がいくつか若いという。こんなにも色気があるのに、羨ましい。3人で飲むワインはあっという間だ。もう二本目が開きそうな勢いだ。


「ねぇコトエ。あんた好きな男できたでしょ」
「えええ!」
「はいはい!聞きたい聞きたいー!」


急な睡さんからのツッコミに私は驚きおののく。そこへ間髪入れずに優さんが参戦してきた。何故睡さんには分かってしまうのだろうか。



「好きな人って言うか...。気になる人はできた、かなぁ」
「えー!同僚ですかぁ?」
「同僚ならかなり絞られるわね」
「やー、でも私女らしさが足りないっていうか」
「そこがあんたのいいとこでしょ」



消さんと同じようなセリフを言われたな、と頭のすみでぼんやり考えながら私はグラスの中のワインを口に含んだ。
酔いが回るとペラペラと余計な事を喋ってしまう。それはほかの2人も同じで。過去の恋愛暴露大会とようになっていた。



「それでぇー、その人はいつもスマートで大人っぽいんですぅ」
「ああコトエさんわかりますそれー大人の男っていいですよねぇー色気があってぇ」
「馬鹿ねぇ男なんていくつになっても中身はガキンチョよ」



ワインを三本目を開けたところで飲み会はお開きとなった。中身のある話は全く出来てはいない。3人でぺちゃくちゃと喋り明かし1時頃に2人は肩を組みながら帰っていった。





(私らしさ.....か...)




左手を枕にテーブルへ突っ伏し空になったグラスを見つめた。皆が言う私らしさ、私が思う女らしさ。
私はゆっくりと立ち上がりグラス類を水につけた。シャワーは少し休憩してから入ろう。そう決めて椅子にもう一度腰掛けた。



「オールマイト、そろそろ帰ったかしら」





独り言をつぶやき、私はスマートフォンを開く。彼から連絡がくればいいのに。このまま画面を見つめていれば通知がくるかもしれないと根拠の無い思いを募らせていた。




「くるわけないか」




待っても待っても予想通り連絡はなかった。そうだ。彼の中では私は一同僚。何の気持ちもない。彼からしたらまだ出会って1週間なのだ。当たり前だ。




「私、こんなに惚れやすかったかな」




私はそのままテーブルに突っ伏したまま重い瞼を閉じた。
片思いの間が1番楽しいと睡さんは言っていた。果たして本当にそうなのだろうか。私は現に毎日彼の事を考えている。あーでもないこーでもないと脳内で会議を重ねる。
しかし今の私は楽しいというよりかは、苦しい。これが楽しかったと思える日が来るのだろうか。


「お....るま..いと..」



私の意識はそこで途絶えた。







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