とてもつまらなさそうにしている人だと思った。

円卓会議の卓上で、頬杖ついて冷めた目で俺を見る男は二十も半ばを過ぎた頃だろうか。
お前になどはなから期待していない、と眼前につきつけられたようだった。

能面のような面持ちのまま終ぞ表情を崩すことのなかった男はナマエというらしい。
エドマンド辺境伯の実子である彼は父の代行として今日の会議に参列していた。
辺境伯の潤沢な財源は同盟にとって極めて重要であり、既に家督の相続も着々と進められるナマエに取り入っておいて損はないと祖父は笑った。

散々俺を値踏みするように睨んだ後、煩わしそうにふいと逸らした顔はよく見えない。
だが、第一印象は最悪だったんだろうなあと能天気な奴でもわかるほどに彼の態度は固かった。


鷹のように鋭い瞳は金色、それと同じ髪の色も、如何にも貴族然とした所作も全てが美しく、しかしどこか空虚なナマエは引き留める間も無くさっさと帰ってゆく。
他の諸侯がその姿を嘲笑うように見送るのを俺は見逃さなかった。
お喋りな従者が言うには、彼はどうも父親ほどの才覚には恵まれなかったようだ。
幸か不幸か紋章を持って生まれたために家を継ぐことは許されたものの、どこをとっても平々凡々な彼は狡猾で野心家な父親の御眼鏡には叶わず、あろうことか辺境伯は遠縁の養女を迎える始末。
それを揶揄してナマエを濫吹の嫡子だのと嘯く者もいた。

相続の件で揉めているのか歳の離れた義妹との関係に悩んでいるのか、とにかくあの家はそういった類の話題に事欠かないようだ。

「…少なくとも、俺には凡百な男には見えなかったがねえ……」

黄金の髪。黄金の瞳。
あの目に見つめられると、どうにも心がざわざわするというか、落ち着かないというか……

…そうか、金鹿だ。
ナマエはレスターの聖獣、翻る旗に輝く金の鹿を彷彿とさせる優美さを備えているのだ。
であれば何故、彼は周囲から軽んじられているのか。
古来より美しさというものは、求心力のみならず敵を翻弄する武器にもなり得た筈だ。エドマンド辺境伯ともあろう男が子息のそれを利用しない筈もない。

お喋りな従者がまた声をひそめて囁いた。

「あれは、妾の子なんですよ」

ファーガスより分裂したレスター諸侯同盟では、比較的自由で革新的な国風を特徴としている。
屈強な軍を持つ王国と千年の歴史を誇る帝国に並ぶためには、柔軟な見地から次代の新たな技術を取り入れる必要があった。
しかしそれはあくまでふたつの大国との差別化を図るための建前に過ぎない。
貴族は未だ黴臭い因習に捕らわれ、紋章を持たぬ者は廃嫡され、領主の悪虐が目に余る。そんな家も少なくなかった。

そして、辺境伯家も例に漏れず。
正妻との間にもうけた長男は紋章を持たなかったので赤子のうちに捨てられた。
妾が生んだ子には紋章があったが、半分は平民の血であったがために認知されるまで随分骨が折れたらしい。
結局嫡出の身分を得たものの、ナマエが辺境伯の屋敷で暮らしていくには相当肩身の狭い思いをしただろう。

そういう諸々の事情があって、あの方は相続の話が出た際に爵位の返上も考えたそうですよ。まあ辺境伯がそんなこと許す筈もなく…そのときただでさえ歪な親子関係が一気に冷え込んだとか…ええまったく、可哀想ですねえ、翻弄されっぱなしですよ。
円卓会議で諸侯どもの面なんか、拝みたくもないんじゃないですかね?

けたけた笑ってしめくくった俺の従者はお喋りなだけでなく口も悪いようだ。




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