「……あ、お義兄さま…」

金糸の如く輝く御髪の、端正なお顔のその方は、私の義理の兄でごさいます。
無愛想にそっけなく通り過ぎてしまう。私を、視界に収めようともなさらなかった。
嫌われているのです。どうしようもなく。

身ひとつでやってきたこの屋敷に心温まる良い思い出などありません。
特異な紋章を持つというだけで、それに利用価値を見いだしたがために私と養子縁組を結ぶような、奇っ怪で打算的で冷血な男の、息子。

ナマエお義兄さまは、いつもつまらなさそうにしていらっしゃいました。


「お義兄さま、あの………」
「…どうかしましたか」
「あ…いえ、その…ユリエが…お義兄さまの、馬が…」
「馬が、何か?」
「さ、産気づいていて…だから、あの…」
「馬丁に任せてあります。では」

振り向くことなく行ってしまわれました。

いつもあんな風に、ろくに会話もせず、目も合わせず、私の性格の所為もあるのでしょうけれど、お義兄さまだって私をどこまでも避け続けているのです。

お義兄さまに名前を呼ばれたことはほとんどありません。
お義兄さまの名前をお呼びしたこともほとんどありません。
そして…お義父さまがお義兄さまの名前をお呼びするところを見たことも、ただの一度もないのです。



「マリアンヌ、お前は春から学校へ行きなさい」

会話の無い薄暗い食堂で、唐突にお義父さまが仰いました。

「え………学校…?」
「大修道院に併設されている士官学校だ。貴族の子弟は皆あすこで学問を修める。無論私も……これも」

これ、と指差されたお義兄さまの、ナイフを持つ手が震えてかちりと小さな音が鳴りました。

「修めるべきは学問に限らない。教養、礼節、武芸に人脈。毎節ごとに手紙を出すように」
「そ、そんな…いきなり…」

返事は要らないとばかりに席を立つと、食堂を出て行ってしまわれます。

「……………」
「…良かったですね。学校に行けば、少しは気も晴れるでしょう…」
「…え……?」

珍しく、本当に珍しく、お義兄さまが私を見て笑っていらっしゃる。
喜ばしいことのはずなのに、私は心底ぞっと致しました。蝋燭の灯りだけの卓上に金色の瞳が爛々と輝いております。

「あそこには父がいない。継母も愚母もいない。一年間、存分に羽を伸ばすがよろしい」

そう言って、更に細められた瞳が恐ろしかった。
これから途轍もなくおぞましいことが起こりそうな…なにかとても嫌な予感が致しました。
最早冷たく不味いばかりの食事に口をつける気は起きませんでした。

女神様、どうか、私をお導きください。




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