さっきからスマートフォンが鳴り止まない。
夜半に起こる事件なんざ決まってろくでもないものばかりだ。おまけに雨すら降りはじめたとくれば、サボりたいという欲求が膨大さを伴って急速にやって来る。

着信履歴を確認するとほとんどはベンやクリスからだったが、最新の入電はハンクのものだった。
何の気なしに録音されていた留守電を再生してみる。

『……あー、うー…おいコナー、お前言え…ああクソ…』

『ナマエ警部。エデンクラブで事件発生です。恐らくアンドロイドによる殺人かと。早急にお越し下さい』

『サボりやがったらお前、ブッ殺してやるからな、ウッ…』

『すみません、ハンクは二日酔いで。とにかくお待ちしています』

うはあ、めんどくさ。
雨は降るわクソ寒いわ、ただでさえ今朝の一件で俺の運勢には充分ケチがついているのだ。
案外殺人でもなく腹上死だったりするんじゃないの。
…めんどくせえなあ、ほんと。

フィルターぎりぎりまで吸い込んだ煙草を道端に捨て、ついでにもう一本平らげてから、俺は忙しなく行き交う雑踏に向けてハンドルを切った。


エデンクラブ、という名の性風俗店へやっとこさ辿り着くと、たった今ゲロってきましたと言わんばかりに顔色の悪いハンクが俺を一瞥して言い放った。

「遅えぞバカヤロウ」

雨に濡れながらわざわざ出向いてやった俺に対して開口一番バカヤロウとは、ちょっとは有り難みとか感じないわけ?
しこたま飲んで潰れてたところを捜査に駆り出されたってのには少し同情するけど、1ミリたりとも俺に非は無いわけだ。

「はぁー、もう帰っちゃおうかなあー」

「ご足労感謝します。ナマエ警部」

「…アンドロイドくん、君は出世するよ!」

「コナーです」

現場の状況について彼が端的に教えてくれた要点をまとめると、3Pしてた変態が被害者で、一体のセクサロイドは既にシャットダウン済みだけど、もう一体はまだ店内にいるはずなので探してこい、ってことらしい。

「え、こん中から探すの…?なんか色々いっぱいいるけど」

「ああそうだ。お前も手伝え」

「青髪で女性型。もしかすると、他のアンドロイドが彼女を目撃しているかもしれません」

「だとよ」

「なるほどね…」

店内にショーウィンドウのマネキンよろしく突っ立っているセクサロイドを見渡した。
多様な性癖に対応できるようあらゆる人種、男女問わず。ずらりと並んだこの中から、特定の変異体だけを目撃した奴を探し出す。

やってられるか、バーカ!
こんな怠すぎる作業、アンドロイド事件担当刑事がやればいいでしょって言いたいの、俺は。

努めて真面目に冷静に、真剣さを装う。
なんとか逃げようとする素振りはおくびにもださず、あくまで俺は職務を全うする意思があるという姿勢を見せつつちゃっかり出口方面へ後退していく。

けれども残念なことに、一瞬間の内にハンクとアンドロイドの間である共通の認識が交わされたところを俺は見逃さなかった。まずい。

「あっちで利用客に聞き込みしてくるわ」

言うが早いか足早にその場を去ろうとした俺の肩へ、静かに、しかし力強いアンドロイドの腕が素早く回される。

「向こうは今ベンが片付けてるんだよ。お前はコッチの変異体探しに協力しろ。いいな?」



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