ガリガリ
家事用に購入したアンドロイドが自分の娘を誘拐して姿を消した。
ちょっと目を話した隙に突然乱暴されて逃げられた。
俺は悪くない!
散々クスリ絡みの件で摘発された挙句暴力沙汰まで起こす男が、自分を棚に上げて被害者面するさまのなんと浅ましいことか。
それでも正義のおまわりさんは、被害者に寄り添って懇切丁寧に事情聴取をしてやらなけりゃならない。こんなクズ相手であろうと、だ。
昨晩からの雨が続く中、ハンクが目撃証言のあった現場へと向かう一方、暇を持て余していた俺が被害者から話を聞くことにしたのはいいのだが。
ガリガリガリガリガリ
「…警部、齧り過ぎです。それとせめて貧乏ゆすりはよしてください」
「クリスくん。俺はねえ、ここんところ全然ツイてないんだよ」
「は?」
「禁煙なんて土台無理だよね、むりむり。もう限界」
「あっ、ちょ…!」
ごみごみした署内を足早に抜けて車をひとっ走り。
冬の夜空は好きだ。冷たく透き通った空気も、よりはっきりと瞬く星も。生物を拒絶するかのような、凍てつく程の寒々しさも。
かじかんだ手をうまく動かすことができなくて、それがまるで生気のないマネキンの手首のようで、面白くて笑ってしまう。
人間とアンドロイドって、あんまり違わないのかも。
肺いっぱいに煙草の煙を吸い込み、ひと気のまばらな公園でなんの遠慮もなく吐き出した。
とうとうやっちまったという後悔よりも、清々しさの方が上回った。
拳銃を抜くことを認められたいがために警察官を志した俺は、弱きを助け強きを挫くとか、街の治安を任された責任感とか、そういう類の精神を持ち合わせていない。
ここはアメリカだから警官じゃなくても銃は持てる?持とうと思えば?
甘い。胸がむかついてくる程に甘ったるいチョコココナッツ味のキャンディよりも、甘い。
半分アジアの血が混じる俺が店先で銃を買おうものなら、鼻で笑われるか罵声を浴びせられるか、最悪頭を吹き飛ばされるかもしれない。
正義という名の絶対的な権力を振りかざすことができる警察官という立場を以て初めて、俺の小さな横暴は許されるのだ。
吸い込んだ煙が冷たい空気と共に俺の肺を汚染していく。
久しぶりにぼんやりとした心地よさを覚えながら紫煙をくゆらせていると、微かにちらついていた雪が雨に変わり始めた。嫌な予感がした。
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