あの豺狼は主人なんか持つべきじゃなかった。

銀狼は月光の下に体躯を晒し、遣る瀬無く遠吠えをあげた。

従順な飼い犬であれたなら別の道もあっただろうに。

狩人は一匹の哀れな犬を偲んでひとりごちた。



はじめてひとを殺したときから頭の片隅である欲望が燻り続けていた。それは喉の渇きを覚える感覚によく似ていて、決して許されないものであったとしても、耐え続けることは苦痛だったのだ。
少しのきっかけで簡単に綻ぶとわかっていれば、いや、今更詮無きことか。



「ごめん…ごめんなあ……う、ひっぐ…」

横たわった狼を撫でながらカリムはぼろぼろと泣き崩れていた。
気を失っているだけなのだろう、その躰は微かに上下し温かい体温を残している。

「お、俺を守ろうとじてぐれだのにい…ごめん、ナマエ……」

泣きじゃくりながら黒毛に顔を埋める。
毛がいつにも増してふわふわなのは昨晩ジャミルが苦労して風呂に入れてくれたから。
石鹸と太陽の香りが鼻をくすぐる。
何故だかそれがどうしようもなく胸を締めつけるのだ。

不意に、涙の伝う頬をぺろりと舐められた。
凶暴性を失った黄金の瞳がじっとこちらを見つめている。

「っあ…ナマエ…………」

そこから堰を切ったように涙は止めどなく溢れ、泣き喚き、縋り付く。
狼はいつまでも、いつまでも寄り添っていた。




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