「ここはカリムの実家じゃないんだ、いい加減周囲の目というものを気にしろ!アジーム家の体裁に傷がついたらどうしてくれる!」

「だって、ナイフとかフォークとか使いにくいし…」

「そうだぜジャミル、お前も皿に顔突っ込んで食べるナマエを可愛いって撫でてたじゃないか」

「それは子供の頃の話だろう!」

なおも飼い犬を庇おうとするカリムの様子に、ジャミルは不満げに鼻を鳴らすと部屋を出て行ってしまった。
しゅんと項垂れるナマエの尾は足の間に挟まれている。

「元気出せって、な?お前はずっとあの食べ方だったんだし無理する必要ねえよ」

「でも、ご主人さまんちのてーさいが…」

「そんなの気にしねえって!親父もお袋もなんも言わなかっただろ?」

にっこり笑って頭を撫でてやると、遠慮がちにぱたぱたと尻尾が揺れた。


ナマエは狼の獣人族だ。
熱砂の国では黒々とした大きな体躯にカリムを乗せて実家の庭を走り回ったものだった。

獣人とはいえすこし、いやさかなり野性味が強く、獣でいた時間の方が長いしむしろ自然というイレギュラーだ。

だからひとの形をとっても四つん這いで動き回ることがままある上、食事も基本的に手を使おうとしない。
毎朝仕方なしに制服を着用するとしばらく機嫌が悪くなるし、ジャミルが風呂に入れようものなら烈火の如く抵抗する。退屈な授業も、ついでに注射も嫌いだ。

ただカリムとアジーム家への忠誠心は凄まじく、嫡子を暗殺しようと放たれた刺客から主人を守りきれたことは彼の至上の誇りだった。

カリムからもらったばかりの、パパラチアサファイアの首輪が今のお気に入り。
カリムと散歩することが毎日楽しみで仕方がない。
そんなどこにでもいるような、ただの犬。




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