このひとにはきっと何を言っても無駄だ。
僕は初めて、言葉は通じているのに会話が成立しないことの恐ろしさを身を以って実感している。


ほんの偶然に道端で出会った吉良を探す男の人はナマエさん、という。
他人のスタンドは見えるものの自身は使役できなければ現れてもいないそうで、素質があってもきっかけがなくては一生発現しないこともあるみたいだ。

俺はキラークイーンを愛しているんだ、って恥ずかしげもなくさらりと公言できる…ちょっと、いやかなりおかしい人。

どれだけ吉良のしでかしてきた非道な行いを、人を爆死させる力の恐ろしさを説いても。
整った顔でふわりと微笑んでキラークイーンは素晴らしいね、なんて。すごく愛おしげに。
まるであいつの殺人をその目で見てきたかのような振る舞いで、一連の行為を許容しているふうにキラークイーンを褒めそやして、良心の呵責を微塵も感じさせない、人。

「…なんとも思わないんですか?あいつが一体どれだけの人間を殺してきたか、それがどういうことなのか、理解してるんですか?」

ナマエさんはそれに答えない代わりに、静かに述べた。

「汝、殺すなかれ」

「え…」

「実に尊い言葉だと思わないかね?まったくその通り、人殺しなんてのはやっちゃあいけないんだ…」

「だったらどうして!わかってくれないんですか!吉良は大量殺人鬼なんですよ!」

無性に感じたそら恐ろしさからか、半ば叫ぶようになってしまった。周囲の人間がひそひそとざわめく声が遠く聞こえる。


本質なんだ。神は人間の悍ましい本質をよく理解しているからこそ、人に人を殺してくれるなとわざわざ戒めを掲げるんだろう。
人間は殺人を犯す道理と倫理観に折り合いをつけてはじめて誰かを殺すことができる、実に身勝手で自分本位な生き物だからね。

誰しも綺麗な上っ面で汚い部分を覆い隠そうとするものだが、それはつまり高尚な精神を持つ者だろうときっかけさえあれば悪魔に転じうるということだ。
キラークイーンはそういう真理を如実に体現しているからこそ、美しい。


呆気にとられる僕に構わずひと息に。
呪詛のように言葉を吐き出しながら、しかし教会で説教をする聖職者のように穏やかだった。躊躇いなんか無かった。
どうしようもなく狂っている、と思った。

わからない。ナマエさんが何を言っているのかわからない。
わかりたくもない。

「僕が言ってるのはそんなことじゃない…吉良は、何にも悪いことをしていない人を殺すんですよ!奴自身の穢らわしい欲望のためだけに!」

「同じさ」

彼は先程エコーズを美しくないときっぱり言いのけたのと同じトーンでそう言った。

「道理にそぐわないから殺す。殺せと言われたから殺す。気持ちよくなりたいから殺す。ね、ほら、同じだろ?」

だからね、あんまりキラークイーンをいじめちゃあいけない。同族嫌悪も程々にしたまえよと、さも僕には対処しようのない絶対的な存在であるかのように言い置いて。

ナマエさんは顔も名前も指紋さえも造り替えた吉良を探しに行ってしまった。

僕は、奴の非道を説く過程で、赤の他人にすり替わって生活している事実を、彼に伝えてしまったんだ。




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