キラークイーンが怪我をした。
あれはスタンドが発現してまだ間もないころ。
触れた物を爆発物にするという能力に慣れきっていないためか、些細なミスでほんの小さな擦り傷を負った。当然私自身も。
唾でもつけておけば治るようなそれに、ナマエは血相を変えてすっ飛んできた。
「キラークイーン!きみ、怪我をしたって…!」
「………不法侵入だぞ」
案の定私の言は聞き流され、今にも泣きそうになりながらキラークイーンの手を取った。取ることができたのだ、ナマエは。
その証拠に、奴の手がみっともなく震えていたことをよく覚えている。
「き、切られたのかい…?可哀想に、なんて非道いことを…」
「少し抵抗されたんだよ。大したことはないさ」
ナマエが壊れ物に触れるかの如くキラークイーンの指先を撫ぜるように、私もいわば戦利品の手首に優しく頬ずりする。
君の整えられた指先に映えるであろうアクセサリーは、どんな物がいいかな。今度いっしょに買いに行こうね。
「…キラークイーンを傷付けた女を連れ歩いているのか?」
「……私の勝手じゃあないか」
瞬間ナマエの纏う空気が変化した。
常ならば彼の耳に届きもしない私の言葉が、静かに、しかし確実にナマエの怒髪天を衝いたのだろう。
何故だか妙に、胸が熱くなる感覚を覚えた。
「キラークイーンはお前のスタンドだろう。最もそばにいるお前だけが、よく知るお前だけが、守ってやらなければならないのに」
「君、それは逆だよ…スタンドが本体を守るんだ。私を守るためにキラークイーンは盾となるのだ。従順に」
だって、それはスタンドとスタンド使いである以上必然だ。
だからわざと言葉を選んで言ってやった。
「キラークイーンは私のことが大好きなんだからね」
ああ!なんて気分が良いんだろう。
ナマエの、あの…キラークイーンの前ではでれでれとだらしないくせひとたび私の方を向けば終始無機質な、あの顔が歪んだ。
君、そんな表情もできるんじゃないか。ようやくまともな人間らしさが垣間見えたな。
「…構わないさ」
「………あ?」
「構わない。キラークイーンが俺を見てくれなくても、本体にしか興味が無くても、それでいい。俺が君を愛することを許してくれるなら、それだけで」
傲慢が過ぎるかいと微笑んで、ナマエはそっとキラークイーンの指先に唇を落とした。流れるような一連の所作に醜く歪んだ表情は影も無く。躊躇いもまるで無く。
キラークイーンは微動だにせずナマエを見つめている。
ふたりだけの世界、のような。
どこまでも癪に障る男め。
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