今夜は特に冷えるから、ヨシカゲも肌寒く感じるみたい。
いつもより高めの温度で沸かしたホットミルクを舐めるヨシカゲを眺めていると、突然室内にぴゅうと風が入ってきた。さっき窓は閉めたはずなのに。

「やあキラークイーン、ご機嫌麗しゅう。今晩も素敵に綺麗だよ」

「…何故毎度キラークイーンを出しているタイミングを見計らったように現れるんだね君は」

どこから入ってきたのか、音も無くナマエはそこに立っていた。ふわりと花の香りが漂う。
キラークイーンに似て可愛らしいからつい買ってしまうんだと言って、ナマエはいつも薄桃色の花束をたずさえてやって来る。
きょうはアザレア。花言葉は恋の喜び。
きざったらしいとヨシカゲは毎回口を尖らせる。

「秀麗な君には月すら嫉妬してしまうね…触れても構わないかい?」

「聞け、私の話を」

ヨシカゲの台詞を意にも介さずナマエはわたしへ手を伸ばした。

名前を呼んで、頬に触れて、手も握った。
だからわたしは、なんの疑問もなくごく自然な動作でナマエの身体を包み込んだ。
アザレアの仄かな良い香りと、夜の街の匂い。
それからナマエはやっぱりあたたかかった。

「……………………………………………。」

『?』

いつまで経ってもナマエが固まったまま動かない。
微笑むナマエをねだるように見つめればすぐにでもわたしを撫でてくれるのに、どうして。

「………き、キラークイーン…?何をしている…」

あっけに取られたようにヨシカゲは呟くけれど、ナマエの手はわたしの方向へ伸ばしたっきり宙ぶらりんのまま。
ぎゅう、と腕に込める力を強くしてみた。ナマエがそうするように手を握って頬に触れる。
そうしてはじめて、ナマエの瞳がちらりと動いた。

「あ…」

ようやくわたしを捉えた瞳が覚束なく揺れる。
それはまるで現状を把握しきれないとでもいうようにしばらく右往左往して、腰に回したわたしの腕を確かめるように触って、慈しむようにため息をついて。それから。

「嗚呼、主よ…!天にまします我らが神よ!!いずれ煉獄の炎がこの身を焼こうとも、俺はこの瞬間がために在ったのだと、此処に至るために生を受けたのだと、今!たった今、理解できましたとも!!!」

「喧しい!近所迷惑だろうが!」

がなるヨシカゲをよそに遠慮がちにナマエのほっそりした腕が背中に回され、ことばの勢いとは裏腹にいたわるように抱きしめられる。
とくとくとくとく、規則正しく脈打つ鼓動がじかに伝わってくる。

ヨシカゲとは異なるそれが、なんだか、とっても。とっても。
いい感じ。

わたしは、やっとまんぞくした。




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