アイビーの葉が芽吹き、やがて花が咲いた。
控えめな白い花が窓辺に揺れていると、あの幸薄そうな少年の顔が思い出される。
「これはダメだぞ」
仕方がないな、と嗤うように色彩は揺れた。
なんの因果がたまたま手に入れたいくつかの手紙には、彼の切実な思いが真摯に綴られていた。
見なかったことにしようとしたのだが…流石に良心が咎めたというか。古い記憶に思いを馳せてみることは許されるだろうかと思案して。たまには悪くないよなと言い訳のように結論付けて。
なんとなくこいつも懐かしそうに煌めくものだったから。
一通だけ手紙を返してやった。彼の望み通り種も育てた。それきりで終わらせるつもりだった。
そのたった一度きりの気の迷いを、俺はとても後悔することになる。
「久しぶり」
路傍で声をかけられた。
それが自分に向けられたものだとは思わなかったから、一瞬反応が遅れた。
「ナマエ…って、いうんだね。君の名前」
どこから調べたのかとうの昔に捨てたはずの名前を呼ぶ声に振り返ると、輝くばかりの見事な金髪と深緑をたたえた瞳の少年が穏やかに微笑んで俺を見ている。
その背後はどこにでもある普通の街並みなのに、まるで巨匠の描いた絵画のような鮮烈さがそこにはあった。
誰、と聞きかえす間もなく。
その細腕には到底似つかわしくない、万力の如く強い力で左腕を掴まれる。
彫刻のような顔立ちからはすっかり笑みが消えていた。
「かつての姿はないと伝えたこともあるんだれけど、まあいいや…ね、僕があげたアイビー育ててくれたんでしょう。花は綺麗に咲いた?」
「は……」
まさか。こいつ。そんな。なんで。
さっさと理解しろよと言わんばかりにみしりと腕が悲鳴をあげた。
「……………ハルノ?」
必死に記憶を手繰り寄せてその名前を呼ぶと、能面のような無表情から打って変わって華やかに顔を綻ばせる。
「今の僕はジョルノと呼ばれてるって言ったじゃない。あ、ぜんぶの手紙を読んだわけじゃあないんだっけ?どうやって手紙を受け取ったのかも気になるし…構やしないさ、時間はたっぷりあるんだもの」
饒舌に喋る男だった。記憶の中の少年と酷く食い違う。
「話したいことがたくさんあるんだ…聞きたいこともね。ああ嬉しいなあ、やっと会えた…」
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