さあ吹け風よ、ハイオー!我を揺さぶれよ
1人の男が鐘を鳴らす、ハイオー!我を揺さぶれよ
2人の男が舵輪につく、ハイオー!我を揺さぶれよ
3人の男がブレースへ、ハイオー!我を揺さぶれよ
4人の男がゲルンスルを張る、ハイオー!我を揺さぶれよ
5人の男がバントラインへ、ハイオー!我を揺さぶれよ
カンカンカン、と鐘が鳴り響く。
「奪還作戦の奴らが帰ってきたぞ!」
アルミンは父と母を探すために人ごみを掻き分けて前へ出た。エレンとミカサも続く。
「…ほら、やっぱりな。調査兵団の二の舞だ」
「もっと酷いぜ。出向いたのは人口の2割だろ?」
近くの誰かが言いやる声をぼんやり聞き流しながら、アルミンは両親を探した。半ば諦めていた。
「あ………」
そして、父親を見つけた。憔悴しきってはいるが、確かに生きている父親を見つけた。
「父さん!!」
「…あ、アルミン…!」
一も二もなく駆けよってしっかりと抱き合う二人をよそに、エレン達はナマエを探す。
どこにもいない。
腕の無い男の虚ろな顔はナマエではない。
荷車に揺られる男の腕には刺青が無い。
顔中に包帯を巻いた男の頭から覗く頭髪は栗色だ。
何度目をこらしても、どこにもいない。
さぁっと体温が下がっていく。
「う…嘘だろ……」
エレンが低く呟き、ミカサは眉間に皺を寄せて頭を抑えた。
「ん?どうしたお前ら、この世の終わりみてえな顔して」
「ハンネスさん…ナマエさんが、…」
「呼んだか?」
ハンネスの後ろからひょこりとナマエが顔を覗かせた。目立った外傷は無い。
「…紛らわしいんだよッ!!」
ミカサの拳が炸裂した。
俺はとんでもなく、とてつもなく、甘かった。
付け焼き刃でも巨人と戦う術を身につけたと、巨人と渡り合えるなどと甘っちょろい考えを引っさげての奪還作戦は、蹂躙の一言に尽きた。
壁が破られたときの惨状はどこに忘れてきたのだろう。あのとき俺は何を見ていたのだろう。
心のどこかにあったなんとかなるんじゃないかという楽観的な考えを粉々に打ち砕かれ、人間は巨人には勝てないという絶望が全身を支配する。気がづくと俺は、無様に逃げていた。こんなところで死ぬわけにはいかない。
いくつもの死体を通り過ぎて、ふと足が止まる。下半身の無い死体に縋りつく男はアルミンの父親だった。
「あ、あ、あ…」
背後には巨人が迫っていた。俺は、躊躇している暇もないのに俺は、彼を助けることを拒絶した。
アルミンの思い詰めたような表情が脳裏をよぎる。諦めたように伏せた顔も。涙をためた大きな瞳も。
ああ、嫌だ。
俺は震える体を叱咤して立体起動装置に手をかけた。
奪還作戦の生き残りのうち、何故だか俺だけが連行という形で調査兵団の本部を訪ねた。
エレンが跳ねて噛んで殴って暴れて、それを抑えたハンネスが無意味に負傷した。
軍独特のどうにも堅苦しい雰囲気は嫌いだ。特に礼儀正しくぴっちりと分けられた七三分けは大嫌いだ。虫唾が走る。
「はじめまして。私の名はエルヴィン・スミス。先の奪還作戦での噂はかねがね聞いているよ、ナマエ…くん?」
刺すような視線で睨め付けてくる、優等生そのものといった出で立ちの男は調査兵団団長らしい。後ろには何やら思案顔のナナバが控えていた。
「巨人をひとりで…少なくとも2体討伐したそうだね。間違いないか?」
とんとんと指で机を叩く、顎の下で手を組む、全てを見透かすような冷たい眼、何もかもが気に入らない。
「さて、単刀直入に言おうか。調査兵団に入って欲しい」
欲しいとぬかしておきながら、有無を言わさぬ物言いだった。
「断る」
「ナマエ…!」
食い下がろうとするナナバを片手で制して団長様は続ける。
「まあ、実際に巨人と戦って怖気付くものは少なくない。では、ひとつだけ質問しよう」
「君はどこから来たのか?」
言葉に詰まった。誇り高き黒ひげの船に乗るこの俺が、何もやましいことはない筈であるのに、海という単語を発することに臆した。ナナバが心配そうに俺を窺っている。
「……………海だ」
「壁内にそんなものは存在しない」
「証明できるものなんざ持ってない」
「そうか。では、我々も相応の対応をしなければならないな」
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