確か、あの老人がこう言った
「降りろよ、ジョニー。降りるんだ」
明日、給料をもらったらこの船を降りる、潮時だ
降りろよ、ジョニー、降りるんだ!
ああ、降りろよ、ジョニー、降りるんだ!
航海は長いし、風は吹かない、この船を降りる、潮時だ
おお、剣呑な風に、大荒れの海
降りろよ、ジョニー、降りるんだ!
荒れ狂う海、他に行き交う者なく、この船を降りる、潮時だ
このボロ船には乗りたくない
「降りろよ、ジョニー、降りるんだ!」
グロッグは飲めず、メシは最悪、この船を降りる、潮時だ
もっとよこせと愚痴三昧
「降りろよ、ジョニー、降りるんだ!」
だが、その日々も過ぎ、まもなく陸へ
この船を降りる、潮時だ
軋む体に強烈な蹴りが入る。痛みに悶える暇もなく、右から左から、暴力の応酬が続く。
血で滲む視界に人相の悪い男がぼんやりと映り込み、忌々しげに舌打ちをした。
「海から来ただ…?もう少しまともな嘘をついたらどうだ」
口の中が鉄くさくて仕方がない。男のブーツめがけて血を吐き出した。ともすれば意識を失いそうな脳を叱咤して睨みつける。
どいつもこいつも、海の存在すら信じようとしない。堅い脳みそには夢も理想もへったくれもないクソばかり詰め込んで、踏ん反り返ってばかりの……
そこまで毒づいたところで、とびきり大きい衝撃が腹を襲った。たまらず吐瀉物をぶちまける。
「汚ねえな…」
えづく俺の頭を踏みつけるこいつを、ナナバはリヴァイと呼んでいた。同僚かなにかだろうが、俺の勘がただの一兵卒ではないことを告げている。
人相の悪さもさることながら、こびりつくような血の匂いが男の全身に纏わりついている。
的確に急所を抉る技術、手慣れた拷問。恐らくこいつは、人を殺したことがある。一人なんてもんじゃない。大勢。
「いつまでもてめえの戯言に付き合う暇はねえ。今ここで決めろ、俺に従うか、死ぬか」
「………従う?俺が?お前に?」
海賊の俺に、従えだと。黒ひげの船に乗るこの俺に。馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。
「俺は、誰にも、従わない。法にも常識にも。お前にも」
「命が懸かっていてもか?」
「当然」
「…殊勝なことだ」
男の踵が脳天を貫いた。
意識はそこで途切れた。
…非道い…なにも…
……こいつが……
だからって…
……………………………………
誰かが誰かと話している。頭を何かで優しく撫でられたような、いや、気のせいだろう。
ああ、とても、疲れた…
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