さあ、ホルンへ向かう準備はよし
ウェイヘイ、いざゆかん!
ブーツも服もみんな質に入れちまったさ
楽しくやろうぜ、ランディダンディオー!
歯止めを上げろ、歯止めを外せ!
錨は揚げたし、縄はしまった
間もなく閘門を抜けて、外海へ
かわいこちゃんが集まる場所へ
バーと並んだら、速度を上げろ
ウェイヘイ、いざゆかん!
もうすぐ湾を揺れ抜ける
楽しくやろうぜ、ランディダンディオー!
なんとかして壁のむこうへ。そうして、その先の海へ。
ここのところ、時間だけはあるのでずっとそればかり考えている。が、手がかりはおろか自分がここへ来た原因や理由すらもわからないまま。
55ヤードばかりの壁は足場となるものがまるで無く、とてもじゃないが自力では登れない。昇降機には必ず番兵がはりついている。
苦肉の策で地面を掘って抜け出そうとしたときは奴らに追いかけ回された。
それでようやく、どういうわけか、壁の外へ出ようとする者は処罰されるらしいという結論に至る。
番兵が怖くて海賊ができるかと、まっ正面から闘ったこともある。カトラス一本で。
連中は見たこともない武器を手にして、理屈は皆目わからないが空に舞う奴らはさながら鳥のようだった。この壁の中には、俺の知り得ぬ文化と技術があるようだった。
「だから、どうして出られないんだ?」
「壁の向こうには巨人がいるんだぞ。開閉門を開けられるわけないだろう」
ものの数分でふん捕まって牢屋にぶち込まれた俺は、何度目かもわからぬ問答をする。そうでもしていないと本当に気が狂ってしまいそうだった。
「じゃあ、どうして開閉門なんかあるんだ?出ていくつもりがないなら必要ないじゃないか」
「アンタいい加減にしろよ…あのな、アンタ並みの馬鹿どもが馬鹿づら引っさげてあすこを通るんだよ。自分から巨人の餌になりに行くんだな、馬鹿らしく」
「どうして?」
「俺が知るかよ。もう黙れ」
乱暴に柵を叩いたきり、見張りの番兵は黙ってしまった。時折酒を煽りながら、一刻も早くこの場を後にしたいとばかりに懐中時計をいじくっている。俺はまた同じ質問を繰り返す。今度は返事もしなかった。
そうこうしているうち、やがて交代の見張りが来た。
「おせえよ、ハンネス」
「悪りぃ。またエレンがな」
「ほっとけよあんなガキ…」
ぶつくさ言いながら去る男を見送ると、ハンネスと呼ばれた男は俺の目の前にやって来た。
「俺はハンネスってんだ。よろしくな」
口元に笑みを貼り付けたまま座り込む。
「自身を…えーと、かいぞく?だのとのたまう精神異常者か。何度か壁を越えようとしたらしいな」
「俺は、精神異常者なんかじゃない」
「へー。で、そのかいぞくってのはなんなんだ?」
「…船を襲って積荷を奪う」
「犯罪者じゃねえか。檻ん中ぶち込んどいて正解だな」
「ここはどこなんだ?イギリスか?スペインか?」
「お前さ、なんかキメてんの?」
無精ひげを撫でながらハンネスが言い放った。どこか品定めするような目で見下ろしている。
「ここはウォール・マリア。シガンシナ区。駐屯兵団の詰所の、留置所。ここまでわかるか?」
「………いや、ウォール…なんだ?」
「あー…自分の名前言ってみろ」
「記憶喪失だとでも?違う、俺は」
「わあってるよ。壁の外から来たんだろ?」
がちゃんと音をたててひとつの木箱が投げ出された。俺から押収したカトラスやらピストルやらが入っている、とハンネスが続ける。
彼の所属する駐屯兵団はなかなかに腐敗が横行しているようで、これ以上余計な仕事を増やしたくない同僚を買収して手に入れたらしい。
「壁内には無い代物ばっかりだ…アルミンにくれてやったあれはなんだ?お前、一体どこから来たんだよ?」
心なしか語尾を震わせながら詰め寄るハンネスの目は、何かに怯えているようにも、縋っているようにも見えた。
「ここから出してくれ。話はそれからだ」
「……くそっ…」
長い長い沈黙のあと、ハンネスは深く溜息を吐いた。
それから、間違っても変な気を起こすなよ、と釘を刺す。
サッチならいざ知らず、右も左も分からない状況で数少ない協力者を脅迫するほど短絡的ではない。
俺が頷くのを確認すると、牢の扉が開かれ、手足の枷を外された。
「…やっちまった。ああ、俺のバカ……バレたら殺されるぅ…」
うな垂れるハンネスを横目に所持品を回収する。
手持ちの宝石類は綺麗さっぱりなくなっていたが、武器類は問題なく使えそうだ。腰にさしたカトラスの重みを少し嬉しく思いながら、久方ぶりのシャバへ出た。
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