おお、ナンシー・ドーソン、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!彼女のせいで甲板長はカンカン、あれは戒めだったのさ、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!おお、サリー・ラケット、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!ご自慢のジャケットを質に入れ、その質札を売っちまったさ、ハイオー!
おお、キティー・カーソン、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!牧師をプイと袖にして、職人と結ばれましたとさ、ハイオー!
おお、ベッツィ・ベイカー、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!長い細い土地に暮らしてさ、クエーカー教徒と結ばれた、ハイオー!
おお、ジェニー・ウォーカー、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!彼女が鷹匠と結ばれて、みんなで驚きましたとさ、ハイオー!
おお、ポリー・リドル、ハイオー!
陽気にやろうぜ、なあ!新品のフィドルを折ったとさ、ど真ん中からポッキリと、ハイオー!



「お前、調査兵団に入ったらどうだ」
「調査兵団?」
「壁の外に行きたいんなら、現実的にこれしか方法はねえ。海を見て帰ってきたって話は聞かないがな」
「巨人の餌になる云々ってやつか」
「まず半分以上は巨人の胃袋に直行だ。運良く帰ってこれても、五体満足の奴は珍しいくらいだ。大抵どこか巨人に噛みちぎられてるからな」

スペインの奴隷商人と同じくらいタチが悪いじゃないか。

「巨人の急所はうなじだ。兵士は立体起動装置を使って戦う」

腰の機械をこんこんと叩いてハンネスは言った。何か大層なものをぶら下げていると思っていたが、鳥のように飛び回れるのはその装置のおかげらしい。

「首のあたりまで飛び上がってうなじ周りの筋肉を削ぐ。唯一人類が巨人に対抗できる手段だ」
「それ、わざわざ食われに行くようなもんだろう」
「連中は確実にうなじを削がないとどんな傷でも再生する。トカゲの尻尾みたいにな」
「そんなのと生身で戦えってか」
「だから調査兵団は、税金の無駄使いだの自殺志願者の集まりだの言われてる」

人を殺すのは案外簡単だ。イライラしてくる骨の硬さと、まったく嫌になるほどの血の匂いに慣れさえすればなんてことはない。
しかしどうだ。巨人は俺が殺してきたあらゆる人間とも違い、的確に急所を潰さなければ絶対に死なない。なんなら俺が食い殺される可能性の方が高い。
丸腰のまま相手を無力化する方法も、享楽目的の拷問も、つまるところ、今までの経験なんざ微塵も役に立たないわけだ。いっそ嘘だと言って欲しい話じゃないか。

「まあ、どうするかはお前次第だがな…ああそうだ、それとは別にアルミンのことなんだが」
「アルミン?」
「白くて丸い石っころをやった子どもがいるだろう。できたら、俺にしてくれたように海での話を聞かせてやってくれ。あいつはそういうのが大好物なんだ」

ハンネスは地平線のずっと遠くを見つめたあと、そろそろ降りるかと背中を向けて歩き出した。


ハンネスと別れて数日経った後。
教えられた情報と突きつけられた現実を反芻するのに一苦労していた俺は、息抜きに壁から少し離れた街並みを目的もなくぶらぶらしていた。
こんなにも平穏な街並みが、所詮は仮初に過ぎないだなんて。一歩外へ出れば地獄が待っているなんて…
整理の追いつかない頭で思考を巡らせていると、ふと突然、一人の子どもが手足をばたつかせながら走り寄ってきた。肩でぜいぜいと息をして頬は真っ赤に紅潮している。相当興奮しているらしい。

「しんじゅのおにいさん!」
「は?」
「やっぱり!うわあー、また会えるなんて!聞きたいことがたくさんあるんだよね!海のことと、船のことと、それから、それから…」

俺の周りをぴょんぴょん跳ねながら器用にしゃべり続ける。よく舌を噛まないものだ。

「海賊は海上で商船などを襲って積荷を略奪する犯罪集団って認識であってる!?海の上で戦うってどんな感じ!?その刺青は海賊の証なの!?」
「アルミンがやべえ」
「…怖い」
「おにいさんはどこから来たの?どうやって来たの?ねえねえ!」

ひとり鼻息の荒い金髪少年の後ろでは、ふたりの子どもが愕然とした表情で俺と金髪を見比べている。
話をまとめると、どうやらハンネスに俺のことを色々聞いたので取り急ぎ駆けつけた、ということだった。
アルミンと名乗る金髪は終始質問をまくしたてるばかりで、友人であるエレンとミカサからなんとか事のあらましを聞き出したのである。

「…で、帆船はマストの数でいくつか種類がわかれる。俺が乗ってたのはフリゲート。速く走れるから海軍では哨戒として使ってたな」
「海戦では船で隊列を組むんでしょう?もっと大きくて強い船があるの?」
「真っ正面から軍艦に喧嘩ふっかける馬鹿はいねえよ。まあ基本的な攻撃手段は大砲か、より射程の長い臼砲だな。とにかく、敵船の機動力をある程度殺したら白兵戦で積荷を奪う」
「なんだそれ、犯罪者じゃん」
「ああそうだ。期待に添えなくて悪かったな」

俺が知ってる奴らは、かつて奴隷だったり王政に虐げられてきた奴らばかりだったがと意地悪くつけ加えると、エレンは少しだけ顔を赤くした。
出自がどうであれ略奪行為は許されないし、単純に穀潰しの飲んだくれのクソ野郎もいたことは黙っておく。

「ふわー…!これがアン女王の復讐号…!」

俺がサッチの船を思い出しながら描いたつたない絵を、アルミンは宝物のように抱きしめた。

「ナマエさんはすごいね!横領や汚職にまみれた下衆な役人から財を奪って貧しい人たちに分け与えてたんだね!海賊って、実はカッコイイ義賊だったんだね!」
「俺の話聞いてたか?捕まれば問答無用で絞首刑だぞ」
「憧れちゃうなあ〜!」

聞いちゃいねえ。




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