きれいなスペイン女にさよならだ
スペイン女にさよならさ
懐かしきイングランドへ出航だ
美しき女たち。もう会えないかもしれないな
吠えろ、叫べ。俺たちはイングランドの船乗りだ
吠えろ、叫べ。大海原を駆け巡れ
懐かしきイギリス海峡までまっしぐらだ
アシャントからシリーまで、35リーグだ
船は行く、南西の風を受け
船は行く、海の深さを測り
底の白砂は45尋
いざ、帆を広げ、海峡へ勧め
さあ、皆、飲もう。浴びるがごとく
さあ、皆、飲もう。なみなみと注いで
飲めや、陽気に、悲しみを飲み干せ
すべての心優しき女たちに乾杯!
「もっと速く移動したいなら、そのぶん体重を前にかけないと。立体起動は体重移動が要だから」
「アンカーをどこに刺すかも意識して。くれぐれも巨人に頭から突っ込むなんて真似しないでくれよ?」
「ガスをふかしすぎてる!刃もガスも無限じゃないんだ、ガスが切れたら死ぬと思って!」
「斬撃は深いんだけどな。これなら十分致命傷だよ」
「……………」
「大丈夫?はい、水」
俺は今立っているのか寝転んでいるのか、どうも視界が覚束ない。吐き気をこらえるのに精一杯だ。世話焼きの奇特な教官殿が気休めに背中をさすっている。
アンカーをさしかえることを忘れて木に激突するわ、何がどうなってそうなるのかワイヤーがこんがらがって地面に激突するわ、まったく見当違いの方向にぶっ飛ぶわ、俺はありとあらゆる醜態を晒し続けていた。
しかしながら根気よく付き合ってくれるナナバの指導のおかげで、立体起動装置の扱いにもいくらか慣れてきた。
体重移動を利用してガスを節約するなんてこともできるようになり、少なくとも壁外で見当違いの方向にぶっ飛んで目を回す、なんて無様なことにはならない筈だ。
作戦開始まであと1週間。俺は海に帰る。この気持ちは覆らない。死んでたまるか。
だらだらと時間を潰す周りの連中をよそに、俺はひとりでひたすら訓練を続ける。
「お、やってるね。調子はどう?」
複数いる教官の中でもナナバは現役の調査兵なだけあって指示も助言も的確だ。俺には拷問のような苦痛である座学も含めて、殆どつきっきりで教えてもらうことも多い。
「…うん、うなじを削ぐ時はもう少し重心を低くして安定させて。力任せじゃなくて全身を使った方が刃の負担も減るから。できるだけ筋肉の流れに沿って削ぐといいよ」
いつものように助言を受けながらひと通り訓練が終わった頃、ちょうど昼休憩の鐘が鳴る。食堂へ向かう俺を彼が呼び止めた。
「たまにはいいだろ?一緒に食べよう」
「アンタの噂は色々聞いてるぜ」
…海から来たとか。ぐっと身を寄せて小声で囁くこの男は、ナナバの同期なのだという。
昼間から漂う酒の香りを消すつもりは毛頭無いらしく、上着の内ポケットからちらりと覗いたスキットルにはウイスキーの類でも忍ばせているのだろう。
男はゲルガーと名乗った。
「悪いね。どうしても会いたいって駄々をこねるもんだから」
「お前だって興味津々だったじゃねえかよ」
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