俺は今、まるで酸欠の金魚よろしく口を開閉し続けている。
間抜けにも程があるが、一瞬で口内がからからに渇いて、どうしてとか、いつからとか、聞きたいことが山ほどあるのに上手くものを言えないのだ。

「まあええわ、俺警官やねん。しばらくここら一帯パトロールしたるから、安心せえや」

自宅まで把握されている上に、こいつが付近をしばらくパトロール。
なんにも、まったくもって、安心できない。いっときも心が安まらない。
つか、警官だったの?悪い冗談だよな?

「それにしてもなんで電話出てくれへんの?無視はよくないで〜心証が悪い」

「あ、せや、着拒もしたやろ!あかんあかん、俺ら友達やんか!今度やったら絶交やで!」

「なんや立ちっぱなしでごっつう疲れたわ。家上がってええか?ええよな?ほな行こか、お邪魔します〜」

あ…普通に鍵開けた………………



俺のワンルームでガタイの良いチンピラ警察官がふんぞりかえっている。
ただでさえそう広くはない部屋なので、いつもより一層狭くるしく映ってしまう。

案内してからしばらくは右目をぎょろぎょろさせて部屋じゅうを見回していたが、そこまで目を引くものはなかったようで、やがてどかりと床に腰を降ろした。
下のひとから苦情が来たらどうしよう。

「茶」

「はっはい、どうぞ」

「…うっすいのぉ」

お前は王族か何かか?仮にも他人の家だというのに、まるで自分の城のように振る舞いやがって。否応なしに従っている俺も俺なのだが。

そこまで内心悪態をついたところではっとした。
違う、俺はこの人に謝罪しなければならないのだ。つい先程考えを改めたばかりじゃないか。
俺は姿勢を正し、深呼吸すると、プライドもへったくれもなく頭をフローリングの床に打ちつけた。

「その節につきましては大変申し訳ございませんでした」

わざわざ何をしにこんなところまで来たのか知らないが、とにかく誠心誠意謝れば、殺されることもないだろう。

「あ?なんや」

「この間脛を蹴ってしまったので…治療費など、謹んでお支払いいたします」

「すねぇ…?」

彼はとぼけたように虚空を見つめて考え込んでいたが、やがて「…せやったなぁ。うん、せや…」と呟いたかと思うと、
両手で俺の手をがしりと掴んで目をきらっきらさせながら、

「お前、俺のサンドバッグなれや!」




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