奇声を発しながら警官に連行されていく真島を見送り、ようやく俺は家に帰ることができた。

…なんだか、折角の休日を最後の最後に台無しにされた気分だ。

「はあぁ…疲れた…」

そろそろ本当に、真島の襲来を手をこまねいて見ているわけにはいかない段階まできている。
今回も前回も偶然上手く切り抜けることができただけで、次にまた同じような結果になるという保証はどこにも無いのだ。

職場を変えて引っ越すなり警察に動いてもらうなり、何でもいいから手を打たなければ…



今俺は、再び因縁の地神室町のアスファルトを踏んでいる。

つい先日、新しく残された桐生さんからの留守録を恐る恐る再生すると、「話がある」と大層ドスの効いた声で脅されたためだ。

指定されたセレナという落ち着いた雰囲気のクラブに向かうと、既に彼はカウンターに座ってグラスを傾けていた。

「…来たか」

「ご無沙汰してます…隣、失礼しますね」

桐生さんの横の席に収まると、綺麗な女性が俺にもおしぼりとグラスを出してくれた。多分、彼と同じものだろう。

「ありがとう、ございます…」

「いらっしゃい。貴方が錦山くん以外のお友達を連れてくるなんて珍しいと思ったけど…可愛いらしいひとね」

顔から火が出そうだった。二十歳を半ばも過ぎた男が情けないことだが、こういうところの作法なんて全くわからないのだ。

「早速本題に入るが、初めに謝っておく…すまなかった」

「………なんで桐生さんが謝るんですか?それなら俺だって、折角お電話いただいたのに出られなくて、すみませんでした」

「いやそれは、まあ…関係あるか」

話の先が見えない俺を一瞥して少し考え込むと、やがて桐生さんはゆっくりと口を開いた。

真島に携帯を盗まれたために俺の番号が漏洩したこと。
真島が意気揚々と俺をサンドバッグにすると周囲に吹聴していたこと。
真島に目をつけられた人間は執拗に付き纏われ、ろくな目にあわないこと。

俺は突きつけられた理不尽な事実にほとんど泣きそうになりながら、縋るような気持ちで奴から逃げ果せる為の方法を尋ねた。

心なしか疲れ切った表情の桐生さんの回答は、非常にわかりやすく簡潔であった。

「そんなものは、無い」




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